第9話 ~時と時の間で~ ①


 流れる風も筋雲も

 そよぐ木も、いくつかの散る葉も

 タランチュグラの巨体も

 何もかも、写真に写したような静止した空間に見えた。


 辺りは草花や樹の枝がパラパラと落ちていたり、数々の木が生い茂った森林。

 そんな場所へ、どこから現れたのか。

 アイカの目の前に突如現れた、ローブを纏う老人。

 全て静止している異様な空間で、アイカと老人だけが自由に話し、動くことができている。


「えっと……あなたは……?」


 ゲームの中の世界で、あり得ないことは無いとは思いつつも、慣れない状況に混乱しつつ、目の前の老人に問うアイカ。


「ユララムと言う。お主はなんという名なのじゃ」


 ユララムの様子はこのような状況に動揺もなく話す。


「私は、アイカと申します。ユララム、さん。これは一体……どうしてこんな状況になっているのでしょうか」


 相手が年配だと分かると、いつもの癖で接客のような話し方になり、言葉も流暢にもなる。歳が近い方がいろいろと意識してしまう傾向にあるのがアイカだった。


「ワシが時を止めたのじゃよ。あまり長くは止められないがのぅ。

だが、この時間を操れる能力は誰もが欲しているのは事実じゃ」


「はぁ……。それは確かに、そうでしょうね、凄いと思います」


 アイカはユララムの話を聴くが、あまりピンとこないまま相槌をうつ。

 それに、妙に自慢された気がして、ニッコリ微笑むが、内心素直に対処出来ない。


「……まぁ、なんじゃ、ここが初めてなら仕方がない」


「え?」


「実はな、先ほどアイカさんがキリバッドを切り裂くところを地上から見ていたんじゃ。あれは美しかった……」


 恥ずかしいな、どこから見ていたんだろう。


 美しい、という普段言われなれない言葉に驚き、アイカはたじろく。


「での、アイカさん。お主に一度でも会ってこの老いぼれ爺の目に、アイカさんの姿を焼き付けておきたかったんじゃ。見たまま、老いぼれでの。冥土の土産じゃ」


 ほっほっほと寂しそうに笑うユララムに、縁起でもない言葉も出てきて、苦笑してしまう。


「このように老いぼれだと、誰もワシを拾ってくれようとはせん。じゃがな、役に立てないことも、ないはずなんじゃ」


「そう……でしょうね」


 何が言いたいのか。要するに、仲間を探しているのかと疑問が湧いてくるアイカ。ただただ、ユララムの様子を伺う。


「もし、アイカさんがこのタランチュグラを倒せるような事が起きたら、

ワシをアイカさんの仲間に入れてくれんかの」


 やっぱりそうきたか。だけど、自分にはその決定権は無い。

 どうしてだろう、素直にユララムの言葉を受け入れられない自分がいる。

 年がかなり離れてるのもあって、妙に警戒してるのか。


「私には決められませんけど…。それよりも、この高レベルで、そしていろんな術がかかっているタランチュグラを、倒せる、と仰るのですか?」


「そうじゃ。ワシが居れば、簡単に倒せる。見てみぃ、タランチュグラを。今は、あまりにも無防備じゃ」


 時は止められている。アイカを追いかけたまま静止しているため、防御すらできない状況。もしかして、今のまま攻撃をすれば。


「……今攻撃をすれば、ちゃんとダメージを与えられるんですか……?」


「もちろんじゃ。やってみぃ」


 静止しているとは言え、おぞましさは全く拭えないタランチュグラの巨体へアイカは近づく。


「はようせんと、ワシの力があまり持たんぞ。なんせ老いぼれじゃからの」


「はいっ」


 ずるいかもしれないけれど、皆を助けられるならと、決心するアイカ。

 相手は静止しているし、あちらからの攻撃もない。


 怖くはない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る