★拝啓 闇の中から外法が見えた(最終パート)
薄暗い部屋であった。天井に釣り上げられた、魔導式のランプが朧げに部屋を照らす。彼女が──トリシャが、全裸でベッドに手錠でうつ伏せに拘束されているのに気づくのに、そう時間はかからなかった。顎はまくらの上に載せられ、強制的に前を向けられている。
「あはッ」
黒渦を巻いた瞳が、こちらを覗きこんでいた。見知った顔。つい先日に知り合った顔。……父親を、殺した顔。トワイライトの淫靡な笑みがそこにあった。
「お目覚めですかァ、トリシャ先生」
「一体これは……どういうことですか」
「どうしたもこうしたもありませんよォ」
トリシャの視界から消え、金属がこすれる音が鳴る。直後、彼女の背中に激痛が走った。わけもわからぬ内に、か細い声をあげるしかないトリシャの目の前に、トワイライトが鏡を差し入れた。反射して映る、自らの背中。
そこには地獄があった。炎に焼かれる罪人達の姿があった。作りかけのその地獄に這う、針を持ったトワイライトの青白い手。
「嫌……嫌ッ!」
叫べども叫べども、ただ虚しく声が地下室に響くばかりだ。
「嫌ですかァ? 結構自信作なんだけどなァ。どうです、ロード教授」
「ええ、素晴らしいものです。先生、やはりあなたの技術は最高ですよ」
物静かなその声に、トリシャは聞き覚えがあった。もう十五年も昔の話だが、父親がこの声の人物と何度か口論になった事を思い出していた。
「久しぶりですね、トリシャちゃん。ヨウロフ先生には、お世話になったものです。君はとても綺麗になったのだね」
「なんで……どうして……どうして父を殺したんですか!」
「決まってんでしょォ。困るんだよなァ、一部とはいえ、おれたちのカラクリを知ってる人間がいるのはさ。だから、死んでもらった。代わりにあんたの命は助けた。十分だろォ?」
トワイライトの言葉を継ぐように、ロードも話を続けた。
「呪いは未だすべて解明され得ぬ外法。戦争中に研究された以上、研究の全容を知っているのは私とヨウロフ先生以外に無い。いなくなれば、わたしだけのもの。簡単なことです」
「最低です、あなた方は……人間の……!」
彼女の言葉は最後まで出ることはなかった。トワイライトが、まるで機械のごとく精密な動きで、トリシャの背中に針を差し込み、刺青の図面を進めたのだ。
「人間のォ、なんだって?」
「にっ……人間の……」
再び激痛! 苦痛の声を漏らす他無いトリシャに、トワイライトは笑みを交えながらもう一度聞いた。
「人間のォ~、何ァんだってェ~?」
叫び声が、トワイライトの楽しげな笑い声が響く。地下室の薄暗い通路を抜け、一階部分の病院まで、声は届かなかった。レドは、トワイライトがトリシャを連れて出て行った後の、ヨウロフの病院の惨事を思い出す。
未だぬめりのある血が飛び散った処置室で、ヨウロフは背中を斬られて倒れていた。どうやら息はあるようだったが、もはや助かるまい。血に塗れるのも構わずに、レドはヨウロフを助け起こす。青ざめた顔。彼自身も、自分の命がほとんど残っていない事を、分かっているかのようだった。
「若いの……俺はもうだめだ……」
「しっかりして下さい」
身体を揺り動かす度に、力なく揺れるヨウロフの腕から、ぬめった血液が落ちる。命がこぼれていく。
「娘はあの男に攫われた……。俺は報いを受けたのだ。誰かの命を奪った報いを、今こんな形で……」
血まみれの手を、ヨウロフは何もない空中へと伸ばす。
「頼む……娘を、助けてくれ……あのトワイライトを……」
レドが頷く間もなく、彼の手は地に落ち、力尽きた。
「トワイライトは、俺が殺す」
彼はそうつぶやくと、髪と同じ赤錆色の目に影を差し込みながら立ち上がった。命を奪った報いは、遅かれ早かれ誰でも受けねばならぬ。
そして、その報いは自らの命で償わなくてはならないのだ。
翌日の事。
娼館で首を括って死んだ、ミカ・ヴァイドの死体が発見された。担当の憲兵官吏と共に、ドモンは娼館を訪れていた。ミカ・ヴァイドの父親──エイドリアン・ヴァイドの経営する『ヴァイド運輸』の本社はヘイヴン内にあり、彼が面通しをしなければならなかったからだ。
エイドリアンは、微かに震える手で被せられていた布を取る。つい一ヶ月前まで、同じような色だった顔が現れる。目を閉じた、愛しい娘の顔。救ったはずの、命を永らえたはずの、愛しい、娘の──。
「おおお……そんな……そんなバカな……。ミカ、ミカ……目を、目を開けておくれ……」
すがりつき、娘の身体を揺らしても返事はない。それでも、と揺らし続けるエイドリアンの目に、涙が満ち始め、落ちた。止まらない涙、嗚咽。ドモンはそんな彼を見ていられず、目を外へそむけ、ごほごほと咳をした。
窓の外を見ると、遠巻きに見知った顔が立っていた。ハンチング帽を被った、金髪の背の低い青年。ジョウがこちらを見ながら、頷いている。
「ドモンさん、どうなさいました」
不思議そうに話しかける駐屯兵の言葉に、ドモンは振り返りバツが悪そうに返した。
「や、なんでもありません。ちょっと、野暮用を思い出しまして。すぐ戻ります」
泣き叫ぶエイドリアンの声を背に、ドモンは娼館の外へと出て、あたりを警戒しつつジョウのいる路地の近くへ背をつけた。目線は合わせない。下手な詮索をされると面倒になるからだ。
「……なんであんたが……ごほ……ここに来てるんです」
「トワイライト医師の身辺調査。……あれ頼んだの、ヴァイド社長なんだよ。あの社長さんも、とんだ災難ってわけさ。──旦那、教会に集まってほしいんだ」
ドモンはゆっくりと濃い隈の入った鋭い視線を、ジョウに向けた。彼はハンチング帽をぐいぐいと深くかぶり直し、細い目からわずかに金色の瞳をのぞかせた。彼の視線が意味するものを、ドモンは言葉に表さずとも感じ取った。
「全員に伝えッ……ごほごほ! ンンッ! あるんでしょうね」
「旦那が最後だよ。それじゃ、つないだからね。風邪、辛いみたいだけど……大丈夫?」
薄暗い廃教会で集まった四人は、十枚の金貨を目の前にしたまま、押し黙っていた。彼らは断罪屋──復讐を代行し、人を殺して金を得る、悪党である。しかし今度の悪党どもは、常軌を逸したような輩だ。
「なるほどね。そのロード教授ってのが呪いをかけて、倒れた女をトワイライトが治し、身柄を受け取って──リロイ判事が楽しむってことなんだ。よく出来た計画だよ、まったく」
ジョウは全員の情報をまとめて、静かに言った。既に両替済みの金貨八枚と銀貨二十枚を、腐りかけの木の聖書台に置き、並べた。一番に自分の取り分──金貨二枚に銀貨五枚──を取ったのは、アリエッタであった。彼女のくすんだ青い髪は書き分けられており、赤く渦巻いた瞳が覗いている。彼女は瞳が覗いている時、普段と性格が変わり──行動において殺しも辞さなくなるのだ。
「足元を見てさんざん利用した挙句、殺しちゃうなんて……神は未だに寝ているようね」
「神なんてのは、都合のいい時だけ持ちだされるだけ……ごほごほ……です。ホントに困った時だろうとッ……ンンッ! なんにも見ちゃいないんですよ。ゴホッ!」
ドモンは紫色のマフラーで口元を覆い、咳をなんとかこらえながら、自分の取り分を取った。ジョウも、それに習う。最後の金貨二枚に銀貨五枚は、レドの分だ。
レドは既に、昼間のような黒い着流しではなくなっていた。黒いスーツに、血のように赤いネクタイ。黒いシャツに、市松模様の鋭いネクタイピン。右手には、赤い傘。殺し屋としてのレドは、冷たい瞳で無言のまま、自分の取り分へと手を延ばす。
「二本差し。……トワイライトは、俺が殺る。手を出すな」
ドモンは立ち上がり、じろりとレドを見つめた。彼の表情はいつもの鉄面皮、怒りも悲しみも見て取れない。それはいい。だがドモンは、どうも物言いが気に入らなかったのだった。
「あんたがしくじったら、ゴホッ! ……どうするんです」
「俺はしくじらねえ」
「……大した自信ですねえ」
ドモンは少し笑い、彼に背中を向けたかと思うと──短剣を抜き、彼の目の前へと突きつけた! ジョウもアリエッタも、反応する暇もない。レドは身じろぎもせず、努めて冷静に刃を見ていた。
「どうした、二本差し。押し込まねえのか」
ニヤリと笑みを浮かべながら、ドモンは冷や汗を流していた。彼の腹には、レドが右手に持った鉄骨が突きつけられていたのだ。ドモンが構わず刃を押しこめば、彼の身体にも鉄骨が押し込まれるだろう。
「二本差し。あんたの腕が悪いと言うんじゃねえ。今回しくじるとすりゃ、風邪引きのあんただろうからだ。……トワイライトは俺が殺る」
レドは無表情のままそう言い残すと、傘から外した鉄骨を戻し、そのまま教会の外へと歩いて出て行った。ドモンは短剣を納め、咳き込んだ。
「傘屋の野郎……ほんっとに……ごほごほ! 負けず嫌いですねえ」
リロイが民判事所の職員を通じて、郵便局員と名乗る男から手紙を受け取ったのは、夕方になろうかという頃であった。
『例の件で話し合うべきことが出来た。今夜南東地区の廃材置き場にて待つ トワイライト』
妙にそっけない文面に疑問を抱きながらも、リロイは昨晩の事を思い出していた。ミカ・ヴァイドは若く、しとやかで、何より素晴らしい刺青を背負っていた。だからこそリロイは奮起したのだが、どうにもやりすぎてしまったらしい。嫁入り前の彼女には耐えられなかったと見えた。
「まこともったいないものよな」
「リロイ判事。おお、あなたもいらしていたのですか」
ロード教授が、長くねっとりとした髪をかき分けながら声をかける。リロイもそれにおうと言葉を返した。後は、トワイライトだけだ。
廃材置き場の側には、二階建ての寮が備え付けられていた。しかし、今は誰も中に居ない。人気のないここは、おそらく打ち捨てられた場所なのだろう。普段のトワイライトならば、選びそうにない場所だ。
その時、月の光に照らされて、黄昏色の髪が揺れた。黒いローブを羽織り、ゆっくりと歩いてくる彼の姿に、ロードとリロイは安堵する。
「トワイライト。貴様どうしたのだ、こんなところに呼び出して」
彼は黙して何も語らない。
「そうですよ、先生。言ってくだされば場所くらい用意しましたのに……」
「お集まりいただきまして、ありがとうございます」
誰かの声が響いた。思わず振り向くリロイにロード。彼ら二人が見たのは、寮の二階の窓からこちらを見下ろす、髪の長い女の姿。
「わたしは、あなた方に身体を弄ばれて殺された者……恨みを呑んで死にきれず……」
「何を、馬鹿な……幽霊などいるはずなかろうが! 叩き殺してくれる!」
リロイは腰に帯びた長剣を抜き、寮に備え付けられた外階段を登っていく。ロードも彼にすがりつくように階段を登る。臆病なのだ。
「り、リロイ殿! まずは様子を見た方がよろしいのでは。幽霊やもしれません」
「貴様、幽霊など信じおるか。馬鹿者めが……そんなものおるわけなかろう! みろ!」
二階の部屋にいた黒い髪の女は、確かに現実めいて窓を背にして立っていた。足もある。彼女はにやりと笑ってみると──なんと、黒髪を取って足元に落としたではないか。中身はかつらに化粧を施し化けたジョウだったのだ。コケにされたことに、リロイは怒りが収まらない!
「人を舐め腐りおって……素っ首落としてくれるわ!」
その時であった! リロイが一歩足を踏み出した直後、頭上の天井がバリバリと裂け、二本の腕がリロイの顎を掴む! リロイの巨体が宙に浮き、ずるりと屋根まで引きずりあげられた!
「こんばんわ、神を信じぬ不心得者」
赤渦を巻く瞳が、くすんだ青い髪の間から、リロイを射抜く。月を背にして立っているのは、長身巨躯を修道服に押し込めた、シスター・アリエッタ! 彼女によって屋根を転がされたリロイは立ち上がり、剣を上段に構える!
「痴れ者が……! ならばあの世で神に祈っておれ!」
上段から振り下ろした剣を、アリエッタは右手で掴んだ。素手であれば、真っ二つになったであろうが、アリエッタの右手は鉄で編み込まれた手袋で覆われている。加えて彼女の握力は異常! そのまま握りこむと刃が砕け、リロイは大勢を崩したたらを踏む。その瞬間、アリエッタは足を踏み込み、右手拳を腹に叩き込んだ! くの字に折れ曲がるリロイをそのまま両手で頭上に持ち上げ、頭を地面側に向け、お腹を両手でがっちり固めると、屋根にたたきつけた! これぞ現代で言うパイル・ドライバーである! 屋根を突き抜け二階の床を抜け、リロイは断末魔を残し、一階の地面にたたきつけられ即死!
「ひっ、ひーっ! 先生! トワイライト先生!」
トワイライトは、未だ立ち尽くしたままであった。そんな彼にロードはわめく。この危険地帯から、一刻もはやく立ち去らねば、殺されてしまう。しかし、トワイライトは未だ黙したまま喋らぬ。
「……先生?」
よく見ると、彼の身体からは短剣の刃が突き出ている。なぜ? ロードのその疑問は、刃が引っ込み、トワイライトがごろりと倒れたことでようやく解決した。
なぜなら、その影から現れた白いジャケットの憲兵官吏──紫色のマフラーで口元を覆ったドモンが、長剣をロードの腹にも突き入れていたからだ。
「今日は薬飲んで寝なくちゃならねえんですよ。ごほごほ! さっさと死んでもらいましょうか」
勢いをつけて抜き、ドモンは刃についた血を振って飛ばし、剣を納めた。恨みがましく目を見開いたままごろりと転がる、ロードの姿。すべてが終わったのだ。
「……ところが、そうじゃねェんだなァ」
くすくすと笑い声混じりに、男は現れた。黄昏色の長髪を揺らし、黒渦の瞳と笑みに邪悪を載せて、ゆっくりと歩いてやってきた。
「あんたは、まさか……」
「そのまさかさァ。おれがトワイライト。初めましてだな、殺し屋ども。一体誰に頼まれた?」
異常を察して、ジョウとアリエッタが寮から降りて現れる。敵が増えたにも関わらず、トワイライトは喜びすらしながら笑いかけてみせた。
「言わねェか。嫌ならいいんだよ。お前らは全員死ぬがね」
黒いローブが、淡く発光した。トワイライトの身体に刺青として仕込まれた魔導回路が起動したのだ。尤も、ドモンたちにはそのような事は知る由もない。
「そっちで死んでるのは、一体だれです」
「ああ、それね。『死体の再利用』さ。刺青の最中に舌を噛み切って死にやがったんでねェ、魔法でちょいちょいとね。判事と教授が、わざわざ俺を呼び出すわけないって分かりきってたからな。身代わりになってもらった」
ゆっくりとトワイライトは手をかざす。指と指の間から、ドモンとジョウ、そしてアリエッタの姿が覗く。彼の刺青は単なる絵図ではなく、魔法を使うための回路を仕込んだものであり──彼がその気になれば、ドモン達ごと吹き飛ばすような強大な魔法も使えるのだ。ライセンスを持たぬ魔導師たる彼が使うのは、まさしく外法!
「何も喋らねェとあっちゃ……死んでもらうしか無いな」
右腕がより強く発光し始める。勝利を確信し、邪悪な笑みを浮かべるトワイライト。絶望の縁へと沈んだはずのドモンは咳き込んでいたが、顔を上げ、紫色のマフラーを下ろした時、彼は──笑っていた。
「……なぜ、笑って──」
冷たいものが、自分の中に入ってきた。
トワイライトが最期に感じたのは、その程度の感覚であった。首の後ろに何かがある。震えて力が抜け続ける手を何とかのばそうとするが、彼の命が尽きる方が早かった。首の後ろを刺し貫いた鉄骨──その尻には、市松模様の四枚羽がくっついている──を、レドがゆっくり歩いてきた後、無言でそれを引っこ抜いた。血のついた鉄骨をまばたき無く見つめ、市松模様の四枚羽を取り、変形させてネクタイピンに戻す。彼はさながらダーツの如く短い鉄骨を滑空させ、トワイライトに気付かれずして、彼の断罪を果たしたのだ。
「助かりましたよッ……ゴホ!」
「助かった? そうだな。あんたを狙ったはずだが、やつに当たっちまった」
ドモンはそれを聞いて笑い、彼の肩を叩いた。ジョウも、アリエッタも安堵し笑う。レドもわずかに口角を持ち上げた。
「あっ! レド、笑ったじゃん!」
「笑ってない」
「いいえ、笑ったわ。私も見たもの」
「俺は、笑って、ない」
三人は静かに笑った。今日はとにかく、生き残った。いつ死んでも文句は言えない、それが殺し屋稼業。今日笑えても、明日泣くかもしれない。
だから、今日はいいのだ。ドモンは笑みを浮かべ、もう一度レドの肩を叩いた。彼は鉄面皮に戻っていた。だが、案外彼もずっと鉄面皮ではないのだろう。
ドモンが自宅に戻った時刻は、結局深夜を回っていた。
風邪を引いても、働ける限りは馬車馬の如く働かねばならない。実に精神論めいた物言いであるが、それがまかり通るのが憲兵団だ。
「ゴホ! 全く……結局深夜帰りじゃないですか。帰りましたよ!」
「お兄様! 一体どうなされたのですか!」
玄関で咳き込む兄を見ながら、兄譲りの黒い癖っ毛をゆらしながら、妹のセリカはつり目をさらに吊り上げながら叫ぶ。びりびりと伝わる声の振動に、ドモンは辟易としながらなおも咳き込んだ。
「見ての通りですッ……ゴホ! もう今日は僕、寝ますからね」
「そういうことではありません。一体これはどういうことですか! ティナさん!」
「はい、お義姉様! あなた、どうしてこれが家にあるのですか!」
妻のティナが小動物めいた丸い目に涙を溜めながら、ドモンが処方してもらった薬の袋をドモンの鼻先に突き出した。結局一錠も飲めていない。家に持って帰ってからも、すっかり忘れていたのだった。
「いやその……なんといいますか、忙しくて飲めずじまいでして」
「あなた! 仮にも一人前の大人、憲兵官吏でしょう! それが薬を飲まずに病気が治りませんとは、自己管理がなっておりません!」
ティナの大喝に、ドモンは軽く咳き込みながら頭をぼりぼりバツ悪そうに掻いた。正論すぎて、ぐうの音も出ない。
「ティナさん。そう大きな声を出してはいけませんわ」
「お義姉様。しかし……」
「お兄様は一人前の男。つまりは私達に頼らずとも、なんとか治そうという腹づもりに違いありませんわ」
むちゃくちゃな物言いに反論しようと口を開こうとするも、ドモンはその時に限って咳き込む。ティナは強引にドモンの手を開き、薬の袋を持たす。
「そういうことでしたらあなた、今日は離れでお休み下さい。くれぐれも、義姉様や私に移さないようにお願いします。では、おやすみなさい」
そういうと、ティナとセリカは口元をタオルで塞ぎながら、早々に奥へと引っ込んでいってしまった。仕方なくドモンは薬の袋を開け、黒い錠剤を取り出し──口に放り込んだ。魚の肝をそのまま食べているかの如き、すさまじい味だ。
「まずッ」
ドモンは舌を出しながらも、とにかく飲み込もうと苦労していた。飲み込むのに成功したと思ったら、今度は喉に詰まりそうになり、どんどん胸を叩く。ドモンの家の離れではしばらくの間、そうして苦しげに唸る彼の声が響くのだった。
拝啓 闇の中から外法が見えた 終
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