ゾンビドラゴン討伐編

第9話 痛いの痛いのケリー火山あたりに飛んでけー



「ゾンビドラゴン?」



 冒険者ギルドへと戻った僕たちは、討伐依頼に目を通していた。

 でも残念ながら僕はまだ文字を読めない。

 文法はわかるから、教えてもらえばそう時間はかからずに覚えられると思う。


「うむ。ドラゴンは非常に生命力が高い。竜核をつぶしておかねば、ゾンビになってしまう。」


「ふぅん。竜核ってなに?」


「竜の強さの根源だな。私にもある。」


 ゼニスはペロンと服をはだけさせ、胸元を見せる。

 冒険者たちがどよりと湧いた。


 ゼニスの胸元には、半径5㎝ほどの大きさの珠が埋め込まれていた。

 紫色の水晶みたいだ。


 そろそろ服を戻そうか。視線が集まっていますよ。


「ゾンビドラゴンは、ドラゴンでも格段に強くなる。討伐ランクはSだろう。

 この場合は、複数のパーティで戦うのだ。ゾンビは痛覚を持っていないし、こちらもそれなりの損害が出るであろう。」


 ふーん。


「現れたゾンビドラゴンの特徴ってわかる?」


「嘆かわしいことに、紫竜のようだ。頭は潰してあったが、それ以外は処理していなかったらしい。それと、奇妙なことに、翼と左足も無いそうだ。だからBランクが4パーティいればなんとか足りるだろう。」


「あ、それやっぱり僕が殺したヤツだ。」


「なんだと!?」


 ゼニスが僕に凄んできた。美人だけど怖いよ


「しかたないじゃないか。村を襲ってきたんだよ? 僕だって死にたくないし、自分の種族なら死ぬのは嫌だなんてわがままが通る世界じゃないんでしょ?」


「む、むぅ………」


「大丈夫。紫竜の左足は、僕のおなかに入っているよ。初めて食べたお肉がドラゴンの肉で、おいしすぎて涙がでてきたもん。」


「弱肉強食、か。」


「襲い掛かってくる方が悪いの。僕は正当防衛。でも、ゾンビになるなんてしらなかった。

 ごめんね。ちゃんと燃やして埋葬してあげるのが一番よかったんだろうね」


「………もういい。あいつはケンカを売るヤツを間違えた。それだけだ。」



 冒険者たちがゾンビドラゴンの討伐に向けてパーティを募っている。


「ゼニスは行かないの?」


「………息子の哀れななれの果てを拝みに行けというのか? 情報によれば頭が無くて左足がない。しかし素材は大量にあるらしい。すぐに討たれるだろう。」


「そっか。ならしかたないね。」



 頭のないゾンビドラゴンは、衝動にまかせて破壊活動を行うっぽい。

 口がないんだ。暴れるしかないだろう。


 ここは僕たちが住んでいた村から結構離れている。

 ゾンビドラゴンは翼と左足と頭を失ってなお、生きることをあきらめていないのか。



 ゾンビといえどもドラゴン。一匹解体するだけで相当な値段になるだろう。


 なんせSランクが暴走しているようなヤツだから。



 ゼニスに、僕の頭にオレンジ色のバンダナを巻いてもらい、ルスカもしたいと言ってきたので、ルスカの頭にも同じようにオレンジ色のバンダナを巻いた。


「えへへ~、りお。にあう? にあう?」

「うん。かわいいよ。るー。」

「にゃあ~~♪」


 ほっぺたに両手を当てていやんいやんと喜ぶルスカ。

 誰か助けて。僕は多分、今日死ぬ。萌え死ぬ。



「さて、紫竜の里に戻るか」


 と、冒険者ギルドから出ようとすると―――


「討伐隊が足りない! なんでこういう時に限ってCランクとBランクしかいないんだ!」


「ゼニスさん! あなたがドラゴン討伐をしたくないのはわかっている、だが、力を貸してくれ!」


 どうやら、この人里は強い冒険者はいないらしい。



「む………ぐぎぎ………」



 ゼニスは揺れている


 このまま放っておけば被害が拡大するし、かといって自分の息子の討伐に向かうというのは、精神的にきついだろう。


「ゼニス。人間は好き?」


「………ああ。人間は好きだ。放ってはおけまい。」



 折れたようだ。


「行ってくる。ルスカとリオルは、服屋のリンの家に預かってもら―――」

「やー!」


 ゼニスと離れるというと、ルスカが駄々をこねた


「ぜにす、るーもいくの! りおもいっしょなの!」

「しかし………ゾンビドラゴンは凶暴だぞ。体力のないお前たちでは………」

「やーなのー!」

「む、むぅ………リオル。言ってはやれんのか………」


 ゼニスが助けを求めて僕に懇願してきた

 だから僕も3歳なんだって。



「るー。僕からもおねがい。ドラゴンは危ないんだ。死んじゃうかもしれない」

「でもやーなの! ままもぴくしーもいないの………ぜにすもしんじゃやー!」


 ああ、そういうことか。


 ドラゴンによってローラとピクシー。自分をよく扱ってくれる人が死んだ。

 ルスカにとってはさぞ悲しい出来事だろう。


 ドラゴンの討伐に向かって、それっきりゼニスが帰ってこなかったら、ルスカはまた泣いてしまうかもしれないな



「~~~~~~っ!! あー、くそっ! 今回だけだぞ。勝手な行動は許さん!」


 そういうルスカの心情を組んでくれたのか、またもゼニスが折れた。


 ゼニス、子供や人間に甘いな。

 言い寄る男には厳しいけどさ。




「私も討伐に参加しよう。条件がある。この子たちも連れて行く。」



 討伐隊を募っていたクロ―リーに、参加する旨を伝える。


「ダメだ。ゾンビドラゴンが相手ではゼニスも守りながらでは戦えないだろう。」

「連れてはいくが、戦う場所には連れて行かん。安全な場所で誰か一人、そうだな。お前がお守をしてやればいい」

「だが………」

「では、私は討伐に参加しない。紫竜を狩るのは趣味ではないんだ」

「………わかったよ。同行を認めよう」



 こうして、僕らもドラゴンゾンビの討伐に参加することになった。



                    ☆




 ゾンビドラゴンの討伐に向かうのは4つのパーティ


Bランクイエローパーティ 『サンパニー』

Bランクイエローパーティ 『モモルモン』

Cランクグリーンパーティ 『ガーディ』

Aランクオレンジパーティ 『グレイ』


 そして、ソロSランクレッド冒険者のゼニス。ソロDランクブルーの実力の兵士クロ―リー。

 クロ―リーは案内役だ。いないに等しい。


 本当は馬車で移動したいところなんだけど、アルノー山脈のふもとの人里には馬がいない。

 居るにはいるのだが、全て出払っているのだ。

 仕方がないから徒歩でゾンビドラゴンの場所まで行かないといけない。


 Aランクパーティの『グレイ』は、4人パーティで、他は6人パーティらしい。


 人里にAランクパーティが居なかったけど、この人たちはたまたまタイミングよく依頼から帰ってきてそうそうに、ゾンビドラゴンの討伐に駆り出されたのだ

 運とタイミングが悪かったみたいだね



「けっ! なんで俺らがガキのお守をしながら戦わないといけないんだよ」



 Aランクなだけあって、結構強い。

 そして、プライドも結構高い。


「そういってやるな。子煩悩のゼニスが子離れできないから、しかたないだろう」


 さらに口も結構悪い



 魔法使い2人 剣士一人 壁一人


 バランスはいいんじゃないかな。


 魔法使いも、土属性と、火属性の二人だ。

 この世界に治癒術師ヒーラーはいない。

 だけど回復薬が優秀だ。


 治癒術師ヒーラーがいたとしても、光属性か無属性。もしくは魔力量の多い水属性なので、希少なのだそうだ。


 土属性は壁にもなるから便利だろう。

 火は料理にうってつけ。あれ? 僕って一人の時に怪我したらヤバい?


「ゼニス。言われてるよ?」


「放っておけ。いつもの事だ。」



 いくら美人だからって、全員に好かれるわけじゃないもんね。

 Sランクレッドってことで嫉妬の対象にもなるだろう。


 尊敬されて、妬まれて。


 ローラも似たような感じだったな。


 ルスカを崇められて、僕を蔑まれて。



 あの人里から僕たちが住んでいた村まで歩いていくんだけど、冒険者の足でも1週間はかかる場所らしい。


 ワープとかできないんだろうか。


 もちろん、僕たち3歳児も歩くけど、他の冒険者たちがわざわざ僕たちに歩幅を合わせてくれるはずがない。


 僕はずっと走り続けた。

 ルスカは楽しそうに走り回っているけど、僕はつらいよ。


 でも我慢は慣れてる。

 疲れても容赦なく鞭を振るうクラスメイトたちのために、購買まで走る日々。


 だけど、今は自分が生きるために必要な行動。

 質が違う。


 重みが違う。


 僕は自分の身体も鍛えないといけないから、冒険者のみんなにスピードを合わせるために、ポテポテと走り続けた



「りーおー! おそいのー!」

「ま、まってよ、るー!」

「きゃあきゃあ~~♪」


 目の前にルスカが居るだけで、僕はどこまでも走っていけそうだ。


 それはまるで、目の前にニンジンをぶら下げた馬のように!


 頑張れ僕! 世界を狙うんだ!



「チッ、ちょこまかと目障りなんだよお前!」


「ふぎゃ!」



 Aランクの蹴りを受けた


 僕が何歳の頃から蹴られ続けていると思ってんだ。

 受け流すのは慣れてるよ


 インパクトの瞬間、後方に跳び、威力を殺した。


 その分、ものすごく遠くに蹴っ飛ばされたけど


「あ、りおー!」


「お前もだよクソガキ。里にでも戻ってゼニスのおっぱいでも吸ってろ!」


 ―――ドス


「きゃん!!」



 Aランクパーティのリーダー。『ソール』が僕に続いてルスカを蹴った


 蹴った。

 蹴り上げた。



 宙に浮いたルスカを、ゼニスがキャッチした。


 刹那――ブチッと、頭の中で何かがキレる音が聞こえてきた。

 それを認識した途端、視界が紅く染まる。


 なんの音だっけ、コレ



「ケホッ ゲホッ ゴホッ! いた…う………ああああああああああああああああああん!! いたいぃぅわああああああああああああん うああああああああああああああああん!!」


「ピーピー喚くなうっせぇな」


「あああああああああああああああん! りお、りぃお―――――! ふええええええええええええええん」



「うるっせぇ! って言ってんだろ! 黙んねぇとぶっ殺すぞ! これだからガキは嫌いなんだよ!!」


「ああああああああああああああああああああああああああああん!! やなの!

 や――――――――! ふええええええええええん!」


 コロス? コロスって、殺すってこと? ルスカを?


 Aランクの冒険者って、ガラが悪いんだね。

 ナイフを取り出してゼニスに抱かれるルスカへと向けた


 なに、ルスカニハモノヲムケテイルノ?


「アハッ!」


 蹴り飛ばされた僕は、立ち上がってソールへと向かって走る――いや、そんな表現は正しくないな。

 滑空するように闇魔法で自身の身体を浮かせて移動していた



 ソールを殺そう。

 殺して食おう。


 人間も肉だ。


 食糧が目の前にあるんだ。食わない手はないだろう。


 殺さなければ、ルスカが殺されるのならば、殺して食らうまでだ。

 この世は弱肉強食。弱いものから淘汰される運命なのだから


 解体用のミスリル包丁を土魔法で作り出して左手に握りこみ


 僕はソールに向けて闇魔法を発動する―――


「おい」


「ふぐぅ! いで、いででででででで!!」


 発動する寸前に、ゼニスが動いた。

 ゼニスは、ルスカを抱いたままソールの顔を掴み、持ち上げていた


 そのゼニスの形相をみて、赤く染まった視界に色気が戻った。


「………。」


 タッタットン。と、滑空をやめて地面に足をつける。

 


「子供を蹴るとはどういうことだ、貴様。」


「うるせぇから躾けてやってんだろうが!」


「これが躾けだぁ? 笑わせるでない! ただの虐待ではないか!」


「へっ、知るかよんなこと。イテェから早く離しやがれ!」


「そうか。では、この子たちがうけた痛みを思い知るがいい」



 ゼニスはソールの顔を離し、ソールの腹を蹴りつけた。



 ソールは僕が蹴り飛ばされた3倍くらいの距離を飛ばされた



 ―――ダンッ という音を残して、ゼニスの姿が掻き消えたと思ったら



「お前は二度蹴ったな。もう一度だ」

「ガッ!」


 ゼニスはすぐに距離を詰め、ソールの横っ腹をさらに蹴りつけていた。

 援護しよう。


 蹴り飛ばされたソールの後方に、土魔法で石の壁を作りだす。


「がぐ………!」


 蹴られてすぐ、ソールは背中から石壁に激突した。


 冒険者たちはゼニスの素早い行動を目で追えていないようだ。

 僕は糸魔法による空間把握ですべてわかっているから、すぐに援護できた。

 僕が魔法を使ったことに、ゼニス以外誰も気づいていない


 ソールは気絶した。


 自然において、気絶することは死を意味する。


 たとえAランクの冒険者だとしても、それが地に伸びていたら、ゴブリンの餌にでもなりかねない。


「ふん! すまない、時間を取らせたな。ゾンビドラゴン討伐の先を急ごう。」



 ゼニスが気絶したソールを一瞥し、他の冒険者に先に進む旨を伝えた。

 このAランクの冒険者は放っておくと言っているんだ


 といっても、こいつはAランクパーティ『グレイ』のリーダー。

 すぐに仲間が介抱に向かった。


 担架みたいなものを即席で作り、仲間内の2人でリーダを担いで運んでいた



 可哀想に。


「うあああああああああああああん! りお! りお――――!」


「うん、痛かったね。大丈夫。いたいのいたいのケリー火山あたりにとんでけー」


「りおー………ぐすっ………うぅ………ふにゃぁ~♪」


 ルスカのおなかと頭を撫でてあげると、涙目で笑顔になってくれた




 ………。


 ルスカを泣かせやがった。


 ………。


 どうやって殺してやろっかな。



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