紫竜編

第5話 ★★紫竜族長 ゼニス


 ドラゴン族の里についた。


 ドラゴン族とはなんぞや。


 龍人族ドラゴニュートとなんかちゃうのん?


 ちがった。

 竜の里だった。

 人っぽいものなんて居なかった。

 そりゃそうだ。


『ギャオー! グルーア!』


「うわーお」

「おっきいねー」



 見渡す限りのドラゴンちゃん。総勢55匹。

 見飽きた。


 ドラゴン族の里でルスカと二人ぽつんと佇んでいると、一匹のでかいドラゴンが僕たちの前にやってきた。

 なに? 僕たちになにか用?


『私は、ここで紫竜族の族長をしているゼニスだ。』


 びっくらこいた。ドラゴンってしゃべれたのね。


 人間語で話してくれた。

 助かるよ。


『お前たちは神子みこであろう?』


「巫女? 知らないよ、巫女さんがなんだってんだよ。僕たちはただのショタとただのロリだよ。」


『ええい巫女ではない。神の子だ。その髪と背中の翼がそれを物語っているではないか』


「知らないよ。3歳児にそんなん聞かれてもわからないよ! 僕たちをなんだと思ってるの?

 特別な何かだと思ってるの? 言っとくけど、神子ミコ卑弥呼ヒミコ邪馬台国ヤマタイコクだなんだって言ってるキミの方が僕より持ってる情報は多いんだからね! 」


 情報を貰うにしても一気に貰っては困る。

 それに、一方的に知っているていで話されてもこっちには理解もできないよ



『む、それはすまないことをした。神子とは、数百年に一度生まれる神の子の事だ。』


「へー、どうでもいい。おなかすいた。まずごはんにしようよ。」


『なんと! 今私はすごく大事な話をしているのだぞ!』


「知らないよ。勝手にそっちの事情を押し付けるから、僕だって僕の勝手な事情を押し付けてるんだよ。文句あるの?」


『む、むぅ、ああいえばこういう。』


「ここんところ2年くらいまともにご飯食べていないんだ。まずごはんをちょうだい。話はそれから考えるから。」


『お主、3歳と言ったではないか。なぜ食っておらぬのだ』


「僕が忌子として産まれたからだよ! 母親にも叔母にも父にも殴られ続ける生活だよ!

 今まで生きていたのが不思議なくらいだ! もう黙ってごはんにしてくれないかなぁ!

 イライラしてこの辺のもの全部ぶち壊しちゃいたいんだけど!」


 うがーっ! と言いたいことを言い続ける僕。

 お腹がすいてイライラして眉間にシワがよる。

 どうしても話を続けるというなら、僕はこの族長とかいうドラゴンをミンチにして食べるつもりでいる



『ま、待てわかった。メシにしよう』


 わかればいいんだよ。

 あー、もう!


 僕はこんな攻撃的な性格じゃなかったのに、力を持つと人格が狂うって本当なんだね


 落ち着こう。ひっひっふー。



「りおー。ごはんー?」

「そうだよ。ごはん。一緒に食べようね」

「うんっ♪」


 ルスカと手を繋いでゼニスの後ろに続く。

 ゼニスは僕の歩く速度に合わせてくれているみたいだ。

 子供の歩調は凄く遅いのに。意外と優しいところがあるね。

 かなり大きなドラゴンなのに。


「ゼニス。ドラゴンって何食べるの? 人間?」


『人間も食うが、家畜がほとんどだな。ドラゴンはあまり腹が減らぬ。故に腹が減っては人里へ降りるのだ。まぁ、私の場合はむしろ人間のことは好きなのでな。好んで食おうとは思っていない』


「へー。ここはどこ?」


『標高8000mのアルノー山脈だ。』


「僕はだれ?」


『知らん。』


 そういや名乗ってなかった。


 というか標高8000mって、酸素大丈夫かな。ちょっと息苦しいんだけど。

 頭もかなり痛いし。

 高山病じゃないかな、これ。


 アルノー山脈。ここは標高8000mにしては暖かい。肌寒い程度だ。

 地球みたいに丸い世界なんだろうとは思うけど、多分、この山脈は赤道に近い場所なんじゃないかな。


「りーぃおー。おなかすいたの~。」

「うん、もうちょっと待ってね。るー。」

「うん………」


 もう歩くのも辛そうだ。

 子供だから我慢の限界が早いのか


 そんなんじゃ校舎の3階から1階の購買まで焼きそばバトン一人パシリレーを走破できないぞ。

 あいつらは2分以内に戻ってこないと殴るんだぞ。

 それを4往復させられるんだ。


 かといって、生前の僕の鈍重な足は速くても4分はかかったけど。


 足ひっかけなどの妨害活動も活発で最初から一人障害物パシリレーだよ。


 とはいえ、僕も栄養が足りない。

 足元がおぼつかないし、酸素も足りない。


 足腰に力が入らない。


 ふらりとよろけそうになると、ルスカが僕を支えてくれた

 ありがとう、ルスカ


「ごはんってどこまで行くの? 人里まで食いに行くんだったら、僕は無理だよ。体力がない。」


『安心するがいい。人間の胃に優しいものを馳走してやる。ほら、着いたぞ。』


 ゼニスが案内した場所。

 それは林だ。


 標高8000mの山の上で林を見た。


 その林は果物がなっていた



「おお。たしかに胃にやさしいね。たすかるよ」



 ゼニスが屈んでくれたので、よじよじとよじ登る。

 ゼニスを踏み台にしてようやく果物を取ることができた。


 なんだこれ。変な形。§←こんな形の果物なんだけど、食えるの、これ?

 そもそも、本当に胃にやさしいの?


「ゼニス。この果物ってなんなの?」


『コレはアルノー。』


「アルノー山脈だから?」


『うむ。特産品だ。アルノー山脈の高い標高と温暖な気候でしかならん実だぞ。』


 へー。


 一口かじる。


 ジュワリと果汁がしみ出した。

 おいしくない。

 おいしくないが、虫やネズミよりは100倍マシだ。



 3個4個と手を伸ばして全部食べる。


 ルスカはおいしそうに頬張った。

 ルスカは僕と違って舌が肥えているだろうに、なんでもおいしそうに食べるなぁ。



 あ、食べたら元気が出てきた。


 魔力の使い過ぎと高所による頭痛もだいぶ薄くなったような気がする。


 アルノーはもしかしたら痛みどめの材料にでも使えるかもしれない。


 薬は摂取しすぎると毒になる。

 食べすぎには注意しよう。ドラゴンと人間では耐性に差があるだろうし。



「むにゅぅ………りぃお。るーねむい」

「ん、こっちにおいで」

「えへへ………りお、あったかいの。」


 眠気を訴えるルスカを抱きしめる。

 僕より少し背が高いのに、甘えんぼさんだ。


 僕にしがみついたまま、気持ちよさそうに寝息を立てるルスカに気を遣いながら、小声でゼニスに聞く。


「で、神子ってなに?」


『うむ。神子とは、その名の通り神の子である。神子は生まれながらにして膨大な魔力を持っており、純白の髪と翼をもっておる。』

「へー。じゃあゼニスの目は節穴だね。僕のどこが純白なの? 心は純白のつもりでいたけど、この世界の人間のせいで僕の心が歪んじゃったよ。」

『む、そういやお主は真っ黒の髪だな。内包する魔力のみを見ておったから気づかなかったぞ。』


 内包する魔力のみ? 僕は魔力を体内に隠して普通では見えないようにしているはずだけど………

 まぁいっか。問答を続けよう。



「黒い髪は悪魔なんでしょ。わかってたわかってた。」


『うむ。黒い髪は魔王と同じ、悪魔の髪だ。神子とは正反対だな“魔王の子”と呼ばれておる。』


「へー。」


 それはなんとなくわかってたよ


『神子が生まれる時、すなわち、魔王を討伐する時である。』


「じゃあ、ルスカが生まれたってことは、魔王を討伐する時期だってことだね。」


『そうだ。そして、魔王の子が生まれる時、すなわち神を地に落とすときである』


「知らんし。興味ないし。僕たちをそんな面倒くさいものに巻き込まないでくれるかな」


『私に言われてものう。それで、だ。お主は神を討伐し、神子は魔王を討伐するために衝突する、と言われておる。』


「なに、僕がルスカと戦ってどっちかが死なないといけないの?」


『そうは言っておらぬが、そういう言い伝えがあるということだ。だが―――』


 ゼニスは一拍置いて


『神子が魔王の子とこんなに仲が良いとは思わなんだ。心配あるまい。』


「そだね。あと、僕は神とか魔王の討伐とか、めっちゃくちゃどうでもいいから、何もしないよ。」


『なんと! それでは世界が崩壊するやも知れんのだぞ! よいのか!? 』



 魔王とか神とかが討伐されないといけないってどういうことだよ。矛盾発生。

 世代交代のためってなら納得できるけど、そんな存在って寿命とかあるの?


 しかも崩壊ってなんだよ。意味不明。


 今のままで世界が成り立っているなら、そのまま現状維持でいいじゃん。

 どうせ言い伝えが強く脚色されて誇張されただけだろう。


 それに―――


「あは、変なことを聞くね。こんな世界なんて崩壊しちゃえばいいんだよ。むしろ僕が崩壊させてやりたいよ。」



 僕はこの世界が大っ嫌いだ。



「あと、聞きたいことが一つあるんだけど」


『なんだ?』



「闇属性ってなに?」



『闇属性とは、悪魔の持つ属性だ。通常、人間が闇属性を持つことはない。強力な属性だぞ。お主も闇属性の魔法を使って、私の子を地に伏させたのだろう?』



 我が子って………あいつ等、ゼニスの子だったのか。

 ゼニスの息子だか娘だかを食べちゃったよ。

 うん、後悔はしていない。あの時はおなかがすいていた。


「うん。重力の魔法だった。でも、そっか。闇属性は人間が持つものじゃないんだね。」

『うむ。しかし、光属性なら、稀に人間にも発現するようだぞ』



 光属性ってのは治癒の光もあったから、教会とかあったら、引っ張りだこなんだろうな。

 光属性の破壊光線もそうとうな破壊力があったし。


 ルスカが軽く光線を放っただけでドラゴンの翼がちぎれたんだもん。


「わかった。ありがとう。だいたい知りたいことを知れたよ。」



『聞きたいことがあったら、また聞きに来るがいい。』


「うん。じゃあ聞くね。」


『うん?』


 でかい首を捻るゼニス。


「そもそも、僕たちはなんでこんな山脈に連れてこられたの?」


『それはだな、我が息子たちがお前の村の人を食ったであろう。そして、お主は奴らを下した。竜族は強いモノに従うからのう。お主たちに行くあてもなさそうだったから、連れてきたそうだ。』


「そっか。それは素直にありがとう。じゃあ、僕たちはしばらく、ドラゴン族の里に住めばいいんだね」


『ああ。しかし、ドラゴン族とまとめられるのは好かんな。『紫竜しりゅうの里』と呼んではくれまいか』


 ドラゴンたち、体が紫っぽいと思ったら、紫竜っていうのか。最初に言ってたっけ。忘れた。

 他にも色のついたドラゴンとかいるんだろうか。

 いるんだろうな。


「ん、わかった。あ、そうだ。順序がめちゃくちゃになっちゃったけど、自己紹介をするよ。僕はリオル。忌子のリオル。で、この子はルスカ。神子のルスカだね。」



『うむ。わかった。我が一族に伝えておこう。』



 ありがとね。ここがあの村じゃないというだけで、紫竜に囲まれていたって、ここは天国だよ。



                   ☆




 アルノー山脈、紫竜の里。

 ここは紫竜が55匹住む里だ。


 ドラゴンに囲まれていたって、迫害しかなかったあの村じゃないというだけで天国だ。


 そう思っていた時期が僕にもありました。



『グルガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


「うわああああああああああああああああああああああああ!!!」

「きゃあ~~~~~♪」


 状況を分析。


 ゼニスが僕たち兄妹が紫竜の里に住むことを紫竜たちに話したようだ。

 そしたら、里に住むことに反対する竜が居るわいるわ。



 僕を認める竜、15匹

 僕だけを認めない竜5匹

 僕たちを認めない竜30匹

 僕たちに干渉しない竜5匹


 こんな具合でさ、必死にルスカの手を引いてちょこちょこと逃げ回っているわけ。

 でも体力がない。30秒くらい走ったら限界が来た。



 当然か。赤ん坊のころからまともに運動をしていないんだから。


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 うっさい


「もうやめてよー!!」


『GURAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 ああ、生前もこういうことってあったな。


 クラスメートに追い回されて、蹴られて殴られて。


 あの時と違うのは、立ち止まったら暴力じゃなくて死が待っているということくらいか



 限界をちょっと超えて走る。

 35秒くらいはダッシュしたと思う。

 でももうだめだ。3歳児の体力で、栄養失調の身体。


「りお、やすむ?」


「はぁ、ごくっ………うん。はぁ、ふぅー。」


 現在、僕を追いかけ回すのは3匹の紫竜。


 体力もない、栄養もないただの3歳児にしては、45秒も逃げ続けられたことは奇跡だろう。

 というかルスカは無尽蔵に体力がある。

 さすがに元気にハイハイしていただけのことはある。


 僕とルスカは走りをやめて立ち止まり、後ろを振り返る。


 ドスドスとゆっくり追ってくる紫竜。

 その表情は嗜虐心に染まっている。

 いたぶって食べるつもりだ。


「いくよ~、『ぶりーず』」


 そよかぜとか言いながら突風を呼び出すルスカ。


 1匹の紫竜を後方へふっ飛ばし、転倒させた。


「おお、るー。すごいじゃないか」

「にへへ~♪ りお、ほめてー」

「えらいえら―――」


『GYAAAAAAAAAA!!!』


「―――逃げようるー!」


「きゃあ~~~~~~♪」



 僕は必死なのに、ルスカは楽しそうだ。

 僕だって、少し余裕がでてきた。



 僕が通った跡に、土魔法で落とし穴を作成―――躱された


 火魔法を発動。ファイヤウォール。火の壁だ。

 一瞬でも動きを止めてくれれば―――



『GOGYAAAAAAAAAAAAAAA!!』


―――突っ切ってきた。意味ない!

 紫竜の鱗って頑丈だなぁちくしょう!


「ああもう! 『降りろ―――!!』」


『グラッ!?』


 二匹に向かって闇魔法を発動。

 周囲の重力を5倍にした。



 追ってきた2匹の紫竜を地面に伏せさせる。


 重力5倍だってのに、巨体をギリギリと動かす2匹。

 その気になれば闇魔法だけで竜を潰すことはできるけど、それはしない。

 僕もこの状況で、体を鍛えている最中なんだから。


 それに、ゼニスにはお世話になっているんだ。

 紫竜の里の中に、紫竜の死体を作る気は無い。


 10倍だったら身動きは取れないっぽい。

 それだけ、ドラゴンってのは筋力が強くて鱗の鎧が強いってことなんだろうね



 一般人が10倍重力なんて喰らったら一瞬でぺちゃんこだよ。

 一般人にするのであれば最高で3倍くらいが妥当かな。





「ふぅ、ちょっと休憩………るー。水を………」



 紫竜の動きを止めつつ、土魔法で鉄製のコップを作り出す。


「はい、りお♪」



 火照った体を冷ますように、ルスカは氷水を入れてくれた


 ああ、キクキク。

 陸上部って、毎日こんなに走っているんだろうか。

 昼休みの購買パシリレーと同じくらいキツイよこれ


 あと、鉄製だからコップが重い。


 でも土で作ったら泥になるからしかたない。


 火魔法と土魔法をつかってガラスとか作れないかな。

 成功したらいい金儲けになりそうだ。


 土魔法で作ったコップは土魔法により塵にする。土って結構便利だ。

 火は飯時くらいしか使わない。なんでや。



『グルルルルルルル………』



 未だに敵意を向けてくる紫竜。


 どこまで行っても、僕は忌子。理由もなく敵意を向けられることなんて慣れてる。



「さて、今のうちに逃げるか。」

「うんっ!」



 息を整えて、歩き出す。

 走るのは疲れた。


「行くよ、3,2,1」


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 闇魔法を解除して走り出す。

 3歳児のダッシュなんて所詮ポテポテ走る程度の速度でしかない。


 ああ、生前の身体が欲しい。 手足が短い。あ、生前もそうだった。


 でも、親の庇護下に居るよりもこの野生のような生活をしているほうが、僕の身体がふくよかになっていく。

 やっぱり、虫やネズミなんかじゃなくて、ちゃんと果物や肉を食えているんだ。

 魔法さまさま、ドラゴン族さまさま、野生さまさまだ。


 魔法が無かったら僕は今ごろ虐待されて死んでるか、ドラゴンのおなかの中なんだ。

 このことに関してだけは、自分の才能に感謝したい。



「あ、いた! ゼニス!! やっと見つけた!」


「ぜにすー! 見つけたのー!」


『ん? どうした、リオル。ルスカ』



『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


『なるほど、全部わかった。』



 僕の唯一の味方、ゼニスは追いかけてくる紫竜と僕たちとの間に立ち


『グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


『グッ………』



 悔しそうに僕たちを睨みつけ、しずしずと下がった。

 ふぅ、これで一安心。


 ゼニスは僕の事もルスカのことも守ってくれる。

 人間よりも大好きだ。


 人間なんて醜いよ。


 偏見だけで人を捨てるし、すぐ保身に走る。

 醜い人間よりも、本能に忠実に生きているほうがよっぽどいい。


「ふぅ、ありがとう、ゼニス。」


『よいのだ。それより、どうしたのだ、追いかけられたりして。』


「いつものだよ。どうせ僕がゼニスに媚びへつらってるとか勘違いしてるんじゃないかな。まぁ、ちょっと合ってるけど。」


 ゼニスの事は今のところは信用してる。

 でもいつ裏切るのかわからない。


 だから僕は油断はしない。

 生前だって、僕は友達だと思っていた人に窓から突き落とされたんだよ

 結局、なにがどう転ぶのかわからないし、心を許すことはしない。


 心を許せるのはルスカだけだ。


「そういや、ゼニスはなんで人間語が話せるの?」


『む、そういえば私も言っていなかったな。』



 別に興味があったわけでもないけど、ふと立ち上がり、紫色に発光し始めた。


「まぶし………」

「ぜにす、すごいすごーい!」


 発光を続けているうちに、シュルシュルとゼニスの身体が縮んでいく。

 なんだそりゃ


「ふむ。こんなところかの。」


 そこには、竜の翼を持った紫色の髪のお姉さんが居た。

 紫色の髪はサイドでまとめてあり、ドリっている。


 ドリルロール、初めて見た。


 見た目は18歳くらいかな。

 身長は160cm程度。それより少しだけ高いくらい。

 美人だ。若い美人を見るとローラを思い出す。腹立ってきた。


 でも、ゼニスの息子たちが村を滅ぼしてくれたから、たぶんローラもすでに死んでるだろう。


「へえ、人型になれたんだね」

「うむ。序列が上位の竜なら、当然だ。」


 声も滑らかになっている。

 腕や足には竜鱗の名残がある。


「下位の竜ってなんなの?」

「下位の竜は擬態能力を持っておらず、プライドばかりが肥大した竜だ。私の息子たちはまだ救いがあるが、リオルたちを追い回す奴らがまさに下位の竜だ。群れでの序列も当然低い。」


 群れの序列争いもあるんだね、ドラゴンって。大変だ。


「上位の竜は擬態できるんだ。」

「うむ。とはいっても、上位の竜は族長、戦士長クラスだろうがな。」

「人型になったら戦闘力は?」

「少し落ちるが、さほど変わらん。」


 それはすごい。時々は人型になって小回りの利く仕事なんかをするのかな。


 というか、ドラゴンも人と仲良くしたいと思うこともあるのか。

 わざわざ擬態しようなんて思うくらいだし。


 ゼニスの好感度がちょっと上がった。


 本来の竜の形に戻ったゼニスによじ登り、お昼の果物を取りに行く。

 紫竜の里に来てから、もう2週間くらいたったかな。



 ゼニスの息子たちが人里に下りたついでに、ヤギや羊を持ってくるから、お肉についても困ることは無い。

 本当に助かるよ。ドラゴンって光物が好きだったよね。

 だったらお礼になんか綺麗な宝石とか、土魔法で作り出してみようかな。

 ゼニスの寝床を見てみたこともあるけど、金銀財宝や宝石がたくさん置いてあった。

 やっぱりこのお礼で間違いないな。


「ゼニス。これ、小さいけど、僕たちによくしてくれたお礼。あげる。」


『む? なんだこれは。』


「僕の魔法で作ってみたエメラルド。小さいけど、純度は高いよ。」



 ゼニスの頭までよじ登って、エメラルドをちらつかせてみた。

 ダイヤで58面体ブリリアントカットとかしてみたかったけど

 技術もないから、エメラルドを原石であげることにする。直径2㎝のエメラルドだ。結構でかい。


『ほう………たしかに綺麗だな。』


「ダイヤを土魔法で作れたらいいんだけど、さすがに炭素の塊は作れなかったよ。いつかは作れるようになりたいね。」


 オリハルコンは作れるのに、ダイヤを作れないとはこれいかに。


 でも、ダイヤよりもオリハルコンの方が固いんじゃないかな。どうなんだろ。

 ダイヤは金剛石って言うくらいだし、いつかは土魔法で本当にできるようになってみたい。


 修行してみよう。いつかはできるようになるさ。



―――――――――――


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ゼニス絵

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