第3話 襲撃

3歳になった。


 ローラは衣食住については一応してくれる。

 でも、基本的に、僕にノータッチになっていた。


 闇属性があるって知ったローラはすごかったよ

 僕のおむつ、3日も変えなかった。


 離乳食も、食べさせてくれなかった



 おかげでほら、僕はもう生前みたいにガリッガリだよ。


 体力もないし、筋トレしようにもエネルギーが足りない。


 栄養が足りないならどうするか。

 僕は魔力はバカみたいにあるから、それをエネルギーに還元してなんとかギリギリ生き繋いでいた


「りお、だいじょうぶ? くるしくない? 」

「るー、だいじょうぶだよ。ごめん、そこのリンゴ、とってくれるかな。」

「うん♪」



 僕の味方は、ルスカだけになった。

 体力の落ちた僕は、数日に1回くらいしかご飯も食べさせてもらっていない


 『一応育てるけど、死ぬなら死んだでその時考える』

 そんな感じで、僕を放置し続けた。

 ローラは多感な17歳。もはや僕がかわいく見えないようだ。


 ローラもピクシーも、僕を蹴った。


 それでも、僕は二人に笑いかけた


 気味悪がられた



 僕に接してくれるのは、ルスカしかいない。

 ルスカは僕を好いていてくれる。

 申し訳ないけど、ルスカに、3歳の妹に介護されている状態なんだ。


 ルスカが取ってきてくれたりんごをかじる。


 ああ、久しぶりに食べた。

 もったいないからと、種や芯、ヘタまで食べる。

 味気はないけど、胃は膨れた。


 胃が膨れると、体力が戻ってきた。


「るー、ありがと。」

「やんやあん♪」



 鏡を見てみる


 痩せ細った顔。痣だらけの身体。

 黒い髪。生前とは似ても似つかない顔立ち


 だけど、生前によく似た胡乱な表情


 やっぱり、異世界に来ても、僕は負け犬の人生を歩むことになるんだ。





 午後、ピクシーが僕の部屋に怒鳴り込んできた


 なんでも、パパが魔物に襲われて死んだらしい。



 そんなことは知らない。

 あの男は僕がこんな状態でも無関心を貫き、ルスカをかわいがり続けた



 死んでもなんとも思わない



「この悪魔! あんたのせいで、ニルドは!」

「ベッ! ウゥ! うギっ!」


 僕もあんたのせいで、今まさに死にそうだよ。

 涙を流しながら僕を殴るピクシー。

 パパの名前はニルドというらしい。


 あまりにも僕に接点がなかったから、パパの名前を知らなかった。



 この村では僕は孤立した。


 日照りが続いてしまえば僕のせい

 大雨で土砂崩れが起きれば僕のせい

 魔物が現れれば僕のせい

 何か嫌なことがあれば、悪魔である僕がすべての元凶ということになった




 日々、殴られ続けた。ローラはそんな僕を見ても表情を変えず、抱きしめることもせず、ただ『あんたなんか生むんじゃなかった』と言い放つ



 よかったね、ストレスをぶつけられる相手がいて。


 ローラ、お前も死んじゃえ





 僕は一人になると、こっそり魔法の練習を始めていた。


 1歳の属性鑑定の時からだ。


 火魔法

 土魔法

 無属性魔法

 闇魔法


 この4つが僕の属性

 念じると火を起こし

 念じると土を練る。鉱物とか作れた。

 闇魔法は、念じるとその場に重力がかかった。

 無属性魔法についてはよくわからない。


 魔力を練ると、なんか薄い糸みたいなものができた。

 僕はこれを『糸魔法』と名付けることにした



 もちろん、魔法を使っているところを人に見られるわけにはいかない。

 3歳児が使っていいものではないだろう。そのくらいはわかる。


 体力が衰えても、魔力の訓練だけは毎日続けた


 それに、ルスカも言葉がわかるようになったので、僕が魔力の操作について教えてあげ、魔力量を増やす特訓をしている


 日々成長を実感できるのか、ルスカは僕を慕っていた



「みてりお、『をーたーばれっと』!」


 ルスカが水弾を前方に発射する。

 威力は高い。高すぎる。


 だから人目につかないところで訓練は行う。

 ルスカにも、人前では使わないように厳命している。


「えらいよ、るー。」


「えへへ~♪」



 この子だけが、心の支えだ。



 7歳になったら、この村を出よう。

 この世界には、冒険者とかいう職業があったはずだ。


 冒険者は迷宮に潜り、魔物を狩り、生計を立てる。


 僕は荒事は好きじゃないけど、しょうがないと割り切った。

 というか、殴られ続ける日々に、辟易していた。


 もしかしたら僕は、ストレスを発散する場を欲しているのかもしれない。


「あ、りお。けがしてるの。」


 ルスカは僕が怪我をしているのを見つけると、すぐに光魔法を使う。

 光魔法は治癒の力があるようだ。


「ありがと、るー。」

「どういたしましてなの♪」



 ルスカのほっぺたを撫でてあげると、くすぐったそうに身をよじり、僕に抱き着く。

 僕が村を出る時、この子はこの村に置いて行こう。

 そうしたほうがいい。ルスカはこの村では天使のような扱いを受けている。

 充分優遇されているんだ。


 それまで、僕は生きているかどうかわからないけど。



             ☆




 僕は一人で村を歩いていた。

 なぜって? 虫をさがしてるんだよ。食べるために。

 ふらふらと道端によって草むらをかき分ける。霞む視界。その中で動く物体を見つけた。コオロギだ。


 手を伸ばすと僕の存在に気付いたのか、コオロギはとび跳ねて逃げた。

 ああ………。



「あ、あくまだー! しねー!」

「ほんとだ、いしなげよーぜー!」

「うわ、きっちゃねー、むし食おうとしてるぞこいつー!」


 すると、近所の子供たちから石を投げられる始末。


 ちょっとでも反撃したら、『悪魔が打った』ということになって、その親から、僕が殴られる。

 だから、石を甘んじて受け入れる。


 避けない。

 頭に当たる。

 血が出る。

 しかし、石を投げるのをやめない。





「ちっ………」


 家にかえると、ローラは舌打ちした。

 僕が血だらけで帰ってきても、舌打ちをするようになった。


 熟年夫婦か。


 冗談はさておき、理由は家の中が僕の血で汚れるからだろう。

 血まみれになった今日の収穫はバッタ一匹だけだ。

 口の中内入れても逃げようとするから、頑張ってかみつぶした。


 ローラは村で石を投げられてもかばいもしない。一応、衣食住を最低限くれるから、他の村人よりまだ救いがある。



 というか、3歳児の息子が勝手に家を離れているのに、特になんのアクションも起こさないなんて、親としてどうなん?

 ま、そういう親も、生前は慣れてたけどね。


 いーよいーよ。

 この世界に絶望しかないし、むしろ僕がこの世界を滅ぼしたいくらいだよ。


 怪我はルスカに治癒してもらった。


 そんなある日、僕の日常をぶち壊してくれる出来事が起きた。






「ドラゴンが現れたぞー!!」


「また悪魔の仕業じゃあああ! リオルはどこじゃあああ!」


「ドラゴン!? ここへ向かっているの!?」


「そうだ、この村めがけて、群れで飛んでいるのが見えた!」




 この時ばかりは、さすがにテンションが上がった。




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