第2話 闇属性
1歳になった。
「りおー」
「るー。よぅいえあしらー」
よく言えました、とは言えなかった。
不憫だ。体が幼いと、口も満足に動かせないとは。
ルスカが僕の名前を言ってくれた。
お兄ちゃん、じゃなくてもいい。
そんなものは望んでいない。
僕が望むのは、ただ、僕の味方でいてくれることだけだ。
「えらい、えらいじょー!」
「きゃー! りおー! りおー!」
僕の魔力は、すでにとんでもない量になっている。
しかし、練って凝固にし、ひた隠す。
成長したら、まずはピクシーを殺そう。
僕にはその力がある。
でも、僕は自分の魔力が何の属性を持っているのか、まったくわからない。
そんなある日、ルスカと僕を、ピクシーがいやいやながらお風呂に入れてくれた。
僕の事はほったらかし。ルスカを念入りに洗っている。
「ん? これは………」
ピクシーが声を上げる。僕はそろそろとそちらを窺う。
ルスカの背中から、羽が生えてきていた。
1㎝くらいだけど。
「ろ、ローラ! ローラ! こっちに来なさい! ローラ!!」
ピクシーが立ちあがてお風呂場から駆け出した
「っ! 邪魔だよ悪魔!!」
「ふぎっ!!」
ついでに僕を蹴っ飛ばす。
この頃には、僕は立てるようにはなっていた。
腕をクロスさせ、魔力を腕に覆わせる。
ガード成功。
でも、踏ん張りが足りなかった。壁に背中を打ちつけて咳き込む。
僕は這いながらルスカのもとへと向かう
「りおー、りおー! きゃーう!」
僕は蹴られたんだぞ、なにを喜んでいるんだい?
状況を理解していないルスカは、僕が近くに来ると、どういう状況であれ、喜んでくれる。
僕はそれで十分だ。背中を打ちつけた痛みも、もう飛んで行った。
僕は生前から怪我の治りが早い。
今は赤ん坊ということもあるだろうし、日々痛みつけられている。
僕の細胞が怪我に対して相応の進化をしているようだ。
赤ん坊のくせに、生前よりも化け物みたいな体になってしまった。
「ピクシー、どうしたの?」
「ルー様のお背中をご覧ください! ほら、邪魔だよリオル!」
僕を片手で持ち上げるピクシー。猫じゃないんだから、首を掴まないでよ
結構痛いんだから。
ローラはそれを注意もしない。黙認しているんだ。
ローラは今年で15歳。 高校生くらいの年齢だ。
対してピクシーは28歳。 ローラとは一回りほど差がある。
単純に年齢差で逆らえないんだ。
ありがとう、ローラ。僕の心配をしてくれて。
いいんだよ、痛いのはなれてるから。
「まぁ、羽が生えてきてる………やはりこの子は天使なのでしょうか」
「ええ、そうに違いありません。」
うむ。僕もそう思う。
ルスカは天使だ。なんせ、かわいい。
「では、リオはどうなのでしょう?」
ローラが僕を抱っこして、背中を確認してみる
「あら、この子にも、黒い羽が生えてきていますよ」
「ふむ、やはり悪魔なのでしょう。今のうちにこの子を殺した方がよいのではないでしょうか」
え? マジで? ルスカと同じなのに、僕は悪魔ですか
僕にも羽が生えている事には驚きだけど、マジなんなの。
この差別はなんなの?
そしてパパ。あんたはなんで育児を全くしないの?
ピクシーがあんたの息子を蹴ったり殴ったりしているんだよ
なんで何も言わないの?
「殺すのはダメよ。私の息子なのよ!」
「では、リオルの羽は毟りましょう」
「ちょっとピクシー! なにをするの!?」
「離れてください、ローラ! この子は悪魔なのですよ!」
――ブチッ
「いぎゃあああああああああああああ!!」
いってぇ! せっかく生えてきた羽を毟られてしまった!
このアマ、なんてことをしやがる!
「リオル、リオルー! 」
「いっ、へへっ、うー………」
涙を眼に浮かべで、僕はローラに微笑んだ。大丈夫だよ。
痛いのは、慣れてるから。
部位欠損なんて、よくあることだよ。
僕は生前だって、クラスメイトのお父さんがヤクザの人でさ
そのクラスメイトに左手の小指を落とされたこともあるし。
そのくらい、平気だよ。
「リオル………だいじょうぶよ、私が守ってあげるから。」
ありがとう、ローラ。僕の味方でいてくれて、本当にありがとう
お風呂から上がってリビングで一休み。
ちなみに、羽はちぎっても力を込めたらすぐに再生した。不思議な羽だ。
この家は貧しい
というか、村が貧しい
家も広くはない。
僕はローラの前でルスカと抱き合ってきゃあきゃあやっていた。
ローラの目の前では、ピクシーは僕を蹴らないからね。
僕だって、いくら慣れているとは言っても、痛いのは嫌なんだよ。
そんな時だ
「そういえば、そろそろ属性鑑定しないといけないわね。」
ローラがそんなことを言いだしたんだ。
おお、遂に僕の魔力の属性がわかる時が来たのか、僕はテンションが上がった。
もちろん、僕は無表情を貫く
「りおー! きゃあきゃあ! りーおっ♪」
「にゃー、ぶー、るー♪」
のは不可能だった。ルスカがかわいい。
僕は将来、この子と結婚するんだ。
えへへ―――んむぅ!?
「あらー、ルスカは本当にお兄ちゃんが大好きなのねー」
「ぷはぁ!」
「きゃあー! りおー!」
キスされた。やったなこの野郎!
むちゅー
「やっ!」
やなのかよ!
それはそうと、属性鑑定ってのはどうするんだ?
なんか変な水晶のようなものに自分の魔力を注ぎ込んで、水晶の中に映った色で属性を調べるの?
そういうラノベを読んだことがあるけど。
「リオ。ルー。ちょっとお出かけしましょうか」
「うぁ~~い♪」
「きゃあ、りおー!」
僕は元気よく返事をした
さて、
やってきたのは、魔法屋のおばあちゃんの家
魔法屋ってなに? 魔導具とか売ってんの?
それとも属性魔法を教えてくれるの?
「おお、よく来たね、ローラ。それに、リオルとルスカ」
僕たち二人はこの村での異端児。
とくに、ルスカは天使扱いで、僕は悪魔扱いで忌み嫌われている
ローラも大変だね、優遇されすぎる子と冷遇されすぎる子が一緒に居てさ。
でも、蹴られ続ける僕が一番つらいよ。
そこんとこわかってる?
もちろん、このおばあちゃんとて例外ではない。
というか、このおばあちゃんが表立って差別してくるのだ。
それでも、このおばあさんも、あと10年もしたらぽっくり死んでしまいそうだもん。勝手に死んでくれとおもうよ。
「おばあちゃん、今日はこの子たちの属性鑑定に来ました」
「おお、そうかい。そういや、最近1歳になったんだってねぇ」
そうだよ、1歳になったんだよ
通常は1歳ごろから魔力が増え始めて、体から滲み出すらしいよ。
ま、僕とルスカは生まれた時から漏れ出していたみたいだけど。
僕ら異端児は通常よりも魔力が強いらしい。
そして、幼いころから魔力の訓練をすると、普通の子でも爆発的に魔力量が増えるそうだ。
じゃあ、僕のしていた行動は正しいわけだ。
つっても、普通の子供で魔力量を増やす訓練をするのは、早くても6歳かららしい。
僕は生後半年からやってるから、もともとバカみたいな魔力量だったのに、それはもうバカみたいな魔力量を誇っているとか。
それにしても、僕は一度死んでから自称神様とか転生の案内人なんかには出会っていない
自称神様に出会ってチート能力をもらった記憶もない。
だから、魔力量は多くても、結局僕は負け犬の人生を歩むだろう。
僕は、そういう人間なんだから。
期待なんて、最初からするだけ無駄なんだよ。
ずっと友達だと思っていた人も、僕を裏切って、最後には僕を窓から突き落とした。
期待なんて、最初からするものじゃない。
「そうかそうか、では、ルスカから鑑定しようかね」
ルスカを抱き上げるおばちゃん
目の前には水晶が置いてある。
あ、ほんとに水晶で属性を鑑定するんだ
「ルスカ、水晶に手を置いてごらん」
「にゃー! きゃあ~♪」
水晶の色が変わる
「おお、やっぱりこの子はすごい才能があるようじゃ。桁違いの魔力量じゃ。水と風、光と無属性の才能があるようじゃな」
「まあ、光! 本当ですか!?」
「うむ。属性を二つ持っている時点で
おお、さすが我が妹。天使なだけある
それじゃ、妹がそれだけ才能にあふれているなら、と期待せずにはおれない
僕は妹と対極に位置する存在だ
僕も水晶に手を乗せる
「ふむ、リオルは………魔力量がルスカより少ないのう。少々見づらいようじゃ。」
当然だ。僕は自分の魔力を練って体内に隠しているから。
本当は僕はルスカの5倍は魔力がある。
ルスカは赤ん坊の時点で僕が見た感じ常人の20倍は魔力があるっぽいけど。
ただ、練って隠しているから、魔力量の低いピクシーよりも薄い魔力しか纏っていない。
「ふむ、見えた。火と土………後は、無属性じゃな。」
あれ、闇属性は無いんだ。
「む、この色は………初めて見るのう。もしや、キエエエエエエ!!」
「おばあちゃん! どうしたんですか!?」
突然ヒステリックに声を上げる魔法屋のおばあちゃん
なになに、持病の痔だったりするの?
ご愁傷様だね。僕には関係ないよ。
「うー?」
おばあちゃんの膝の上で首を捻る僕。
もしかして、闇属性あった?
「この子は闇属性を持っておる! やはり悪魔じゃ! 魔王の子じゃ!! ここ、殺すのじゃ! 災いが、災いがおきるぞい!!」
えー、闇属性があったのはいいけど、そんなに言われるようなものなの?
というか、なんで闇なの。
どっちかというと、ルスカの属性の方が、僕が好きな属性なんだけど。
水とか風ってかっこいいじゃん。
ほらほら、ローラ。また僕がいじめられてるよ。
早く僕をかばってよ。
「な、本当ですかおばあちゃん! まさかとは思っていましたが、本当に闇属性だったなんて………」
…………………え?
マジで?
うそだろ
なんで、かばってくれないの?
今まで、ずっと庇ってきてくれたじゃん
それが、闇属性だったってだけで?
あは、うそだぁ
私が守ってあげるって、言ったじゃん
その日から、ローラまでも僕に虐待をするようになった。
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