特急・自分号

霧星

第0話

 降り立った駅は、無人だった。誰かがいた形跡もない、屋根もない駅だった。しかし、温もりだけが残っていた。遠くには、寂びれた電車が止まっているのが見えた。

 あれは何だったのだろう。白い息と走っていたあの時は。うまく思い出せない。プールの中で、ゴーグルを外した時のようだ。

 不意に男の声がした。何と言っているのだろう。どこで話しているのだろう。誰の声だろう。誰と話しているのだろう。

 頭の中で何かがはじけた音がした。意味もなく走る。走る。走る。もっと速く、と誰かが畳みかけてくる。おまえは誰だ。なぜ俺に絡む。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。もう、追いかけられたくなんかない。いい加減にしろ。嫌だ嫌だ嫌だ。なぜついてくる。もう疲れた。

 そうか、俺は死んだんだ。自分から逃げて。いつまでも逃げてちゃ意味がない。ここらで終わりにするか。さらば、俺。

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特急・自分号 霧星 @fogstar

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