chapter 2 dark side Ⅰ

 温かい腕に包まれて少年は静かに眠っていた。

 確かにそこには愛があると、少年は一人そう感じていた。


「ね~んねん、ころ~り~よ~。おこ~ろ~り~よ~。ぼうやは良い子だ~、ねんねしな~」


 しかし、少年はゆっくりと目を覚ます。

 そこに広がる屍だらけの世界を確かめるように。

 少年は世界を憎んだ。

 何もかも消えてしまえばいいとさえ思った。


 自分は世界から逸れてしまった異端者。

 しかし世界の調律に入り込めなかったのは自分が悪いことなのか。


 ――許さない絶対に。

 ――僕は絶対に僕をこんな目にした奴等を許さない。

 ――たとえ僕が死んだとしても、

 ――この世から消えてしまって、

 ――奴らが僕を忘れてしまったとしても


 少年は心の中に何度もそう語りかけた。


 そのとき、


「×××××!」


 その声に少年の心は微かに反応した。

 どこからか少年の名を呼ぶ声が聞こえた。

 遥か彼方、闇に包まれそうな心の先、小さな光が差し込む外の世界との唯一の繋ぎ目。

 そこから滲んでくる少女の声。

 それは少年に届いたのだろうか。

 少年自身もそれを知ることは終にはなかった。


「×××××――!」


 その声を遮るように闇が覆っていく。

 そして、光への道は閉ざされ、心を闇が征服した。

 少女の声が少年に届くことはもう無い。

 ここは闇が全てを支配し、憎しみと慟哭がこだまする世界。

 もう誰にも止められない。


 少年はおそらくこの世から消える。

 そして闇が少年の体から弾け、滲み出すように世界を覆っていく。


「僕はお前たちを絶対に許さない」


 少年は宙へと駆け出し、無残にも堕ちてゆく。

 そして少年は黒い霧になり、明日を呪った。

 このさきに生まれてくるであろう少年の怨念を、少年の化身を愛して。


 そして……自らが愛する母へと捧げるように。


 醜い少年の姿を。

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