全年齢のハーレム

@neet

第1話 プロローグ

「す……すみません。僕のこと、占ってもらえませんか?」


 僕は勇気を出して、目の前のロリババアに問いかけてみた。


「ふっ…………。ふっはっはっはっはっはっはっはっはっはっははっはっはは」


 女は反射的に口元を歪ませ高らかに笑った。白い肌とは対照的な赤い唇がいびつな笑みを形作る。


 人々が行き交うこの大通りで、立ち止まっているのは僕だけだった。

 帰宅途中のサラリーマンやOLが額に汗をにじませながら早足ですぎゆく。

 書店からの帰り道、僕はお目当ての解体新書の新訳版を手に入れて浮足立って歩いていた。

 

 でも、足が止まってしまったのだ。

 このトンガリ帽子をかぶった小学生のような風体をした女。風景に馴染んでいない、まるで僕にしか見えていないような存在感でそこにいた女は高層デパートの壁際に机を構えて、机の上には水晶を置いて、五分五〇〇円と書かれた看板を引っさげて、夕日に照らされないよう陰を放ちながら佇んでいた。

 第一印象は不気味。ただのボッタクリだと思ったさ。普段ならこんなまやかしは無視だ。

 

 でも今日は違った。僕は人生に疲れていたのだ。

 高校にも通わず、家で本を読みあさる日々。家から出ることはほとんどなく人との交流はもっぱらネットで済ませていた。

 だけれど、疲れていたのはそのせいじゃない。

 

 ――人生は楽勝だ。それが理由だ。


 IQ180オーバーの僕からすればこの世の事象はすべて理解できてしまう。

 人生を悟ってしまい、やることにも飽きてしまって疲れてしまったのさ。

 だから、今後をこのロリババアに聞いてみようと思った。久しぶりに他人と会話できるチャンスでもあったし、なぜかわからないがワクワクしたんだ。

 そして今、俺は勇気出して声をかけてみたわけだ。そして、その反応は嘲笑い。

 顔から湯気が出るくらい恥ずかしかったね。こっちは半ば人生を悟っているというのに眼前のロリババアは僕を見下してやがる。


「はっ……! なんだよその態度! 人がせっかく聞いてやってんのに。金払いますよ~って言ってんのによぉ!? ちゃんと接客しろよなまじで」


「じゃあ料金。先払いね」


 ロリババアは手を出して小遣いをせびるガキのような顔で俺を見ている。

 これ、傍から見たら小学生にいたずらしてる高校生にしか見えねえだろ……。

 まあいいさ。とにかくこれで欲は満たされる。お前は仕事しろロリが。


「ほらよ」


 ロリババアにお駄賃を渡すと、にっこりと微笑んで、

 

「ありがとう。おにいちゃん!」


 というなり、そのロリババアの姿が一瞬にして完全なるロリ、つまり幼女に変化した。


「おい……お前……」


 僕は訳の分からないままに唖然。


「じゃあ、おにいちゃんにも魔法かけてあげるね!」


 すると、女の子の手元にあった水晶がにわかに光り始め、俺に身体を取り囲んだ。

 女の子は眉根をひそめて念じている。

 俺はされるがままに光を受けた。


「じゃあばいばい、おにいちゃん!」


 返す言葉を探しているうちに、女の子は目の前から姿を消しており、代わりに大人に女性がそこにいた。


 俺は錯覚でも見たのかと思い、悄然としたまま帰宅した。そして、


 ――ある特殊能力に目覚めた。

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