第6話

 みると。テキストCとつづってある。


 ……ん?


 俺は右手で、ほおづえをつき。


 左手でひきよせて、ページをめくり始めた。


『これは記憶をひきつぎ。言語上達に自信のない人へのものです』


 おっ!


 俺はおどろいて身体をおこし。


 あぐらで座りながら読みはじめた。


『まず。この世界は今。みぞうの危機にさらされており――』


 いいから!


 そういうのいいから!


 俺はページをすっとばした。


 『あなたの力が必要なのは、お分かり頂けたでしょうか』


 ――俺は二十ページ分とばした。


 『あなたの言語上達の先生となる人を、同梱しました』


 同梱?


 まさか、これか?


 俺は人形の入った箱を取りだした。


 中には着物をきてヒザをかかえ、目をとじた人間がはいっている。


 大きさは、立って30センチ前後くらいか――。


 箱は透明感のある材質で、そこまで重くもない。


 ――あけてみるか。


 俺は両足の裏で、箱をはさみ固定。


 左手でふたをおさえ。


 右手でテープをはがし。


 かるい音がして、ふたと中の人が上空にすっとんでいった。


 小人をうけ止めようと、構えた――が。


 意外にも、小人は空中でとどまりつづけた。


「はじめましてナノ!」


 小人が笑顔でしゃべる。


「はじめまして」


 俺は会釈した。


 小人には、四枚の羽がはえている。


 これはいわゆる妖精か……


 妖精は、左右に二つお団子をつけた、ショートヘアー。


 お団子から髪がたれ、花がらの和服で、下はスカート状になっている。


「いたっ! ナノ」


 妖精はふってきたフタで頭をぶつけた。


 妖精が頭をさすっているのをみて――


 俺は正直。こんな語尾の人に、異世界語を教わっても大丈夫かなとおもった。


 3


「何かごようはあるナノ?」


 妖精は羽をバタつかせる。


「地図のここ読めます?」


 指をさす俺。


「ボイコット町って書いてあるよ」


「……どうもありがとうございます。自分これから、近くの町に行こうと思うんですけど……方角とか分かります……?」


「……分からないけど、これにコンパスとおなじ意味のことばが書いてあるナノ。これで分かるんじゃないかな……?」


 妖精は『台座つきの球状の物体』をもってきた。


「この物体の中にある――『赤い矢印が、地図に書かれている赤い方向とおなじ』『青い矢印が、じぶんの真上ほうこう』『黄色い矢印が、最短距離のモンスターがいるほうこう』――ナノ」


 妖精は、ガイドブックを読みながらいった。


 中心の一点から三色の矢印は、べつの理由でほうこうを指ししめしているのか。


 黄色の矢印でモンスターに注意しないとな……


 しかし、モンスターとかいるのか、こえーよ……


 大人しい野生動物みたいのなら良いんだけどな……


「ありがとうごさいます」


「どういたしましてナノ」


「自分これから、このボイコット町に行くんですが一緒にきます……?」


「いくナノ」


 荷物はかたづけ。


 箱はヒモで、せおえるようにした。


 町のある方向へ、歩きはじめる俺。


 妖精もそのあとを追う。


 俺たち二人は、しばらく沈黙したまま歩きつづけた……


 ……なんだろうこれは……きまずい。


 ……俺から話しかけることにするか。


「改めてはじめまして。自分はヤキソバといいます」


「はじめまして、わたしはフェリリなの」


「フェアリリさんは、どこからきたんですか……?」


「フェリリなの」


「あ、すいません。えっとフェアリーから『ア』が抜けて『リ』が二個かな?」


「そうナノ」


 なるほど。


「えーっと……。フェリリさんって独特の格好してますよね? 俺のいた――前世の国の文化みたいな……?」


「これは趣味なの」


「ヘー。そうなんですか。いい趣味してますね」


「――勘違いしないでほしいなの。これはヤキソバの趣味ナノ」


「えっ、俺の趣味? それってどういう――」


「――わたしはヤキソバの潜在意識をスキャンして――ヤキソバが好感をもつような、容姿や服装や口調や性格でつくられた――デザインフェアリーなの……」


 4


 それマジ……?


 俺にそんな隠された趣味が……!


 ――っていうか。勝手にしらべんなし……!


 フェリリをながめたが――どうも信じられん……


「泣いていいナノ……」


「いや。泣きはしねーけど……」


「本当に泣きたいのは、わたしナノ……」


「なんかすいませんホント――だけど。妖精道てきに、デザインフェアリーって問題ないんでしょうか……?」


「そのへんの事情はしらないナノ」


「そっかー。せんさいな問題ですしね……」


「単に生まれたばっかで、しらないだけなの」


「でも。話していて。結構、この世界に詳しそうですけど……?」


「情報としてあるていど、最初から頭に入ってるだけナノ――教師があんまりものを知らないと、支障あるからね」


「……そうだったのかー」


 かわいそうに……俺がかわいがってやらんとな……


「話かわるけど。なんで語尾にナノってついてんの……?」


「話かわってないナノ」


「えっ」


「それは、わたしがデザインフェアリーだからナノ」


「やっぱり。俺っちの隠された趣味なのか?」


「気色わるいことに、そうナノ……」


「そういう言い方は、やめてください! 俺の潜在意識がかわいそうです……!」


 話しながら歩きつづける。


 地平線といっても、俺の背の高さだと五キロ程度か?


 もっとも、それはこの世界が星のような形状で。


 地球くらいの大きさでの話なのだが……


「なのって、いってみてくれ」


「なのナノ!」


「なのなのって、いってみてくれ」


「なのなのナノ!」


「なのっていってから、一秒間あいだを開けて。『なの』っていってみてくれ」


「なのナノ、なのナノ!」


「もしかしてわざといってるのか……?」


「ナノ?」


「もしかしてナノって付けないと、しゃべれないとかなのか……?」


「しゃべれるよー」


「しゃべれんのかよ!」


 顔をあげる。


 すると建物の上部が、地平線から飛び出て見えてきた。

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