MP10000な俺の妹が、ターン制異世界でも、かまってちゃんすぎる件

タコタコ

★★★

はじまり編

第1話

 〝おにいちゃん遊んでよー〟




 背後から両手を俺の肩にのせ。体重をかけてくる。



 〝――妹だ〟




「俺はいま。ゲームやってんだよ」


 俺は夢中で、家庭用ゲーム機のコントローラーを動かしながら、妹をあしらった。


「えー。つまんない。つまんない。つまんないー」


 うわ。めんどくせぇ……俺はため息をついた。 


「じゃあ。お前もやるか?」


「うん。やるー」


 俺がやってるのはRPGだ。


 魔王を倒す。ひねりも何もないゲーム。


 複数人でプレイできるのが売りだ。 


「これどうすんのー?」


「それ魂だよ。神官のところへ行って、体をもらうんだ」


 妹は画面のふよふよ浮く魂を移動させて――神官の所へ行く。 


「ねえ。どうやんの? どうやんのー?」


「コマンドで『話す』『体をもらう』を選ぶんだよ。俺はゴッツ洞窟を攻略してるから、今は話しかけないでくれ」


「なんかキャラが魔法少女ってでた」


「うっそ。それレアキャラじゃねえか。くれよ」


「えーやだよー」


「なんだよ。ケチくせーな」


「わたしのレアキャラだもーん」


 俺はもくもくと洞窟を探索する―― 


「ねえ。わたしも洞窟へつれてってよー」


「無理にきまってるだろ。ここ推奨LV七〇以上だぞ?」


「いいじゃん。つれてってよー」


「無理だって」


「いいもーん。じゃあ、わたしは魔法学校いくもーん」


 妹を勝手に遊ばせておいて、俺を洞窟を進めていく。


 よし! ボスの黒竜王倒したわ!


「学校に隕石を落として、退学になっちゃった……」


「なにやってんだよ……謝ってこいよ」


「私悪くないもん。同級生が盗撮してたからだもん」


「これってそういうゲームだったか?」


「わたし就職するよ!」


「……魔法学校はつぶしがきかないぞ」


「大丈夫だよ。レア魔法使いだもん」


 あとは魔法パスポートか。俺は妹のプレイをよそに進めていく。


「げっ。お前がこわしたから、魔法パスポート発行できねえ……!」


「私のせいじゃないもん。盗撮魔のせいだもん」


「ちょっと盗撮されたくらい、我慢しろよ……」


「おにいちゃんの変態!」


 なんでだよ……。しかたねえ。金を稼いで復興するか……


「全然就職できない……」


「魔卒で就職できるわけねえ」


「えーっ!」


 妹はしぶしぶバイトをはじめた。 


「なんかバイトしてたら、プロポーズされた!」


「ん? どんな奴だよ」


「……何かステータスがイケメン。背が高い。剣士学校と魔法学校主席。国王の息子ってでた」


「すげー良いじゃん。そいつにしろよ」


「完璧な男って嫌いー」


「げっ! フリやがった……」


「タイプじゃないんだもーん」


 妹と会話をしながら、俺はたんたんとゲームを進める。


 やっと魔法パスポートが発行されたか。


 手間かけさせやがって。


「わたしバトル大会に出る!」


「そこ結構強いから、勝てねーよ」


「大丈夫だよ。レアキャラだもーん」


「ボコボコにされるぞ」


「一回戦の相手。ザ・不死身。HP無限だって」


「何だそれ……負けイベントか?」


「こいつ魔法学校の盗撮魔じゃん」


「マジ?」


「やったー。ゆすったら勝てたー。経験値をいっぱい貰ったー」


「何の経験だよ」


 妹はプレイをつづける。


「これって参加者を、こっそり階段から突き落とせば、戦わなくても勝てる気がする」


 なんかヤバイこと言ってる……


「おいやめとけよ」


「やったー。魔法で突き落としたら、二回戦突破した」


 ……おいおい大丈夫かよ。


 ……まあいいか。俺は俺でゲームをすすめないとな。


 ――三十分後。


「おにいちゃん! 大会優勝したよ! LV四十まで上がった!」


「そんなに上がったのかよ」


「大会に参加しているキャラ全員。つき落としたからね」


「ひでえな」


「LVも上がったし。これで連れていってくれるよね?」


「いや、四十じゃ無理だから」


「ケチ」


 しっかし。俺の方……手続きが長いな。


 もう魔王城へ行くだけなのに……魔法学校が壊れたせいなのか……?


 ただの学校なのに、ここにも影響すんのかよ。


「もう魔王城へつくよ。おにいちゃん」


「え? 何でだよ……?」


「魔王城いきの船へ密航したんだよ」


「そんなこと出来たのかよ……」


 妹のキャラは暗い画面の中でゆれている。


「なんか船がさわがしいね。イベントバトルが始まったみたい」


 船が怪物におそわれて、冒険者たちが戦っているらしい。


 貨物室で箱の中にいる妹のキャラが、箱の隙間から外をうかがっていた。


 画面では、キャラクターの周囲がほのかに光って確認できる。


「ここも、もう危険なんだけど。おにいちゃん……どうしよう……」


 妹のキャラが、箱の中をグルグル回ってる。


「落ち着けよ。そこから出ていかなければ、多分イベントは進まないだろ?」


「でも右上のタイマーが減ってるし……これカウントダウンじゃないの……?」


「本当だ……おわったな……」


「なんで、お兄ちゃんは他人事なの! わたしのキャラLV低いんだからなんとかしてよ!」


「……だって関係ないからな」


 妹はびみょうに涙ぐんでいる。


「お兄ちゃんが、連れて行ってくれなかったのが悪いんだから、責任とってよ……!」


「無理いうなよ……」


 俺の方の画面をみると、パスポートがおりたようだ。


「おい。俺が今から船でいくからまってろ」


「やったー!」


 どうやら、妹の船らしきものが見えてきた。


 イベント中は、船の位置はとまっているようだ。


 妹のいる船の隣へ俺の船がつく。俺は妹の船へのりこんでいった。


「こっちか?」


「そっちそっち」


 妹に誘導されるまま、妹のいる箱まで来た。


 妹のキャラが、ひょっこり箱から顔を出す。


「やったー。ありがとうお兄ちゃん!」


「後は脱出するだけだな。よし! ついてこい!」


「ダメ」


「えっ」


「だって、わたしのキャラがモンスターと戦ったら、やられちゃうもん」


「……じゃあ、どうすんだよ……?」


「お兄ちゃんのPTに入れてよ。それで仲間の一人にわたしのキャラをかばわせてよ」


「いや、だって。俺のPTは人数が限界で入らないぞ……?」


「仲間を一人抜いてよ」


 俺は顔が青くなった。


「おいおい……ここに俺のキャラを一人残していけって言うのかよ……!」


「だって。お兄ちゃんのPTじゃなければ、やられちゃったら全滅判定になって、復活できないんでしょ?」


「そうだけど。なんとか守ってみせるから……」


「万が一ってこともあるし……わたし心配性だから……」


 いやいや……心配性のやつは密航とかしないだろ。尋常なら……


 俺はしぶしぶ、PTメンバーを一人ぬき。妹をPTに入れた。


「抜いたメンバーの装備やアイテムは、お前が持っててくれ」


「おっけー」


 俺は五十時間ものあいだ、苦楽を共にした仲間を船へおきざりにした。


 沈んだあのキャラと、その親父の確執という、俺のつくった脳内設定をどうすればいいんだよ……


 俺は自分がのってきた船にゆれながら、沈む船を見下ろしていた。


 きっと全プレイヤーの中で、この光景にここまで哀愁を感じてるのは、俺だけにちがいない。


「なんか男キャラ一人、女キャラ三人の四人PTで、バランス悪くなっちゃったね……」


「……誰のせいだよ」


 なんだかドッと、疲れが押しよせてきた……


「もういいだろ……PTから抜けてくれ……。その持ち物は、魔王城まえの町にある、あずかり所へあずけておいてくれ……」


「……わたしピーティー抜けないよ!」


「なんやて!」


「だって、せっかく同じPTになったんだし……このまま魔王倒しちゃおうよ!」


 ……こいつ。これを狙ってたのか……ドヤ顔我慢して顔ピクピクしてやがる……


「お兄ちゃんだって、メンバーが一人ぬけて困ってるんじゃないの……?」


「だってよ。今から何時間もかけてLV上げすんのか? これから魔王城なのに……?」


「当然じゃん」


 いやいやいや……。


 でも仕方ねーな。


 本当は埋め合わせに、キャラを雇う方法もあるんだけどな。


 ――三時間後。


「LV十も上がっちゃった。思ったんだけど、もう進めるんじゃない?」


「え? 何でだ? なんでそう思っちゃったんだ?」


「……私が飽きてきたから……?」


「随分と正直ですね。でもここは堪えてください。全滅してリスタートは避けたいんです」


「わたし! ゲームやってる時くらいは我慢したくないよ!」


 ……もう何て言ったらいいか、わからねえな……。これ。


 俺は妹をなだめすかして、LVを五十五まであげさせた――。


 そして俺たちは、風の吹き荒れる中。魔王城のまえに立っている。


「ねえ。お兄ちゃん……?」


「……ん? なんだ……?」


「わたし! あそこへ隕石を落としたい!」


「……ダメだろ。もしも魔王を倒しちまったら……。っていうか多分このゲーム倒せるだろ……」


 なんとなく俺はこのゲームが分かってきた気がする……これはそういうゲームだわ……


「だから。倒したいんだってば」


「なんでだよ――ちょっと……! コントローラー置いて……! そこ置いて……!」


「いいじゃん? お兄ちゃんだって魔王を倒すのは、待ち望んでたことだよね……?」


「俺がやりたかったのは地道に強くなって。計画的に魔王を倒すことなんだよ」


「……お兄ちゃんに計画……だと……?」


 妹は瞠目している。


 何だよその反応。


 別に良いだろ。


「わかったわかった……。まずここで一回セーブしよう」


 俺はセーブをする。


「それでどうするのー?」


 妹は両手を床につけ。


 肩をすくめ。


 前のめりになりながら、頭を左右に揺らして聞いてくる。


「一度、この記録で魔王をしばく」


「うんうん」


「……で。今さっきセーブした記録の場所じゃない――別のセーブ場所へ記録してから。しばく前の記録を読み込み。今度はおまえの好きにしたらいい」


「隕石を落としていいのー?」


「好きにすればいいぞ」


「よーし」


 妹は隕石コマンドを選択しようとしてる。


「違う……! 違うぞ! それは違う……!」


「何が違うの……? お兄ちゃん……?」


「ファースト! ファーストが大事だからっ……!」


「ファ、ファースト……?」


 妹はきょとん、としている。


「そう、初めてだよ……。初めて魔王を倒すのは、俺のプレイ時間――云十時間の集大成でなければならない……!」


「正直よく分からないかも……」


 そこは分かって欲しかったわ……。俺はがっくりを肩を落とす。


「と、とりあえず……。魔王討伐の初回は俺のいうとおりにしてくれ……」


「しょうがないなあ……」


 分かってくれたか良かった。


 妹が隕石を使わないように目を光らせながら、俺は魔王の討伐を開始する。


 油断はできない――いつ妹が牙をむいて、プレイを崩壊させるか……


 俺があんまりチラチラ見るから、妹がはずかしそうだ。


 いや、そこはテレるところと違うから……!


 ――しばらくして――


「いやー。やっと全クリしたわー。まさか、主人公の体が、魔王の肉体だったとはな――正直、うすうす分かってたけどなー」


「全然、話がわかんなかった……」


「そりゃそうだろ。あんだけイベント飛ばしてりゃな。おっ、クリア後のデータ記録か」


「お兄ちゃん! セーブの位置を間違えないでよねっ……」


「……わかってるよ」


 俺は先ほどの記録の一つ下の位置に、セーブをした。


「つぎ。わたし。わたしー」


 まあ。今までもやってたけどな。


「隕石ー」


 魔王城、哀れ……。


 魔王城はほとんど原型も残ってない。


「……これって魔王の肉体が、主人公の体として残ってるから解決してなくね……?」


「体とか、なんでもよくない……?」


 いや、よくはないだろ……


「もう魔王を倒したし。やることがなくなっちゃったね」


「そうな」


「そうだ! 私のキャラとお兄ちゃんのキャラを結婚させようよ!」


「何でだよ。俺は自分のPTのヒロインと結婚させるんだよ」


「……ケチ」


「じゃあ。そろそろセーブしてくれ」


「はーい」


「セーブセーブっと」


 妹は、俺が正当な手段で全クリした記録の上へ、上書きした。


「おい……! 何やってんだよ……!」


「……だって、違うんだもん」


「えっ。何がだよ……?」


「さっきお兄ちゃんが、集大成うんたらで倒したのって、わたしが活躍してないよね?」


「……まあそうな。でもPTとして戦ったろ……?」


「私の意志が入ってないもん。隕石を使って倒した記録こそが、わたしとお兄ちゃんの本当の記録――本当の冒険――思い出だよ……!」


 ……俺がちゃんと倒した記録は、偽物の冒険だったのかよ……


 妹はセーブを終えると、ゲーム本体の電源をオフにした。


 ……まあ、隕石前の記録も残ってるからいいか……


「おやすみー」


「おう。おやすー」


 妹はそういうと、リビングから自分の部屋へ帰っていった。


 これが妹と二人だけでゲームをやった、人生最後の思い出になった。

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