鮮度

楽しかったこと、悲しかったこと。

全ての思いはやがて消えていくものなのですか?


炎の様に真っ赤な夕焼けに見とれた感動も、

朝顔が芽吹いたその日の喜びも、

今はもう、薄もやの向こう側。


心も思いも新鮮さが大切なのかもしれない。




ある朝、知らず泣いて目が覚めた。

懐かしくて幸せな、母の夢。


いい香りのする母の手が、私の頬を包み込んでくれた。

台所に立って、料理をしている後姿を見た。

初めて自転車に乗れた時、褒めてくれた優しい笑顔。

そして「ごめんね」って私を抱いて泣いた、あの日。


どちらが夢なのかわからなくなって、私はただただ慟哭に暮れる。

最期の時を何度も反芻しなければ、私は夢から覚めることが出来ない。


忘れたい。

忘れたくない。

こんな思い知りたくなかった。


そう。気が付かないだけ。

思いはいつでも新鮮なんだ。

だって、こんなに。

胸が詰まる。

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