2-9


「「先生先生先生先生――――ッ!!」」


 ふにふら、どどんこの二人が大声で叫びながら全力で逃げる中。


「めぐみん、アレは知り合い? なんか、思い切り狙われてるけど」


「知り合いな訳ないじゃないですか、アレは私に秘められた力を恐れし、魔王の尖兵か何かに……、ほ、本当に、なぜ私を追いかけてくるんですか!」


「めぐみんの日頃の行いが悪いからよー! こないだ、エリス教の祭壇に置かれてたお供えかじってるの見たんだからね!?」


 両隣を走るあるえとゆんゆんの声を聞きながら、私はモンスターに追われていた。

 空に舞い上がったモンスターは他の者には目もくれず、なぜか私だけを追いかけてくる。

 他の生徒の姿も目に入っているだろうに、ゆんゆんの言う通り罰でも当たったのだろうかと心配になる。


 私とあるえは、走る邪魔になるあの大きな武器はとっくに捨てていた。

 散っていった他のグループの者もこちらの騒ぎに気づいた様だが、魔法を使える者がいないこの状況では……!


 と、背中でモゾモゾしている何かに気づく。

 背中に爪を立てて引き剥がされまいとしているクロだ。

 ――閃いた!


 私は背中にへばりついていたクロを引き剥がすと、それをモンスターに見えるように高々と掲げ。


「仕方ありません、この毛玉を差し出しましょう! どうです? 私よりも美味しそうでしょう! 我が妹がごはんにしようと言い出す程ですから!」


「流石は主席、発想が違うね!」


「酷すぎる! そんな事ばかりしてるからモンスターに追われるのよ!」


 ゆんゆんに叱られながらもクロを掲げると、モンスターは空中で旋回し、目の前にゆっくりと降りてきた。

 外見は凶暴そうだが、その行動にはあまり敵意は感じられない。

 ふにふらとどどんこの二人は既に遠くに逃げ、他の生徒達が遠巻きに見守る中で、私はモンスターと対峙した。


 と、ゆんゆんが無言で私の前に立つ。

 両手で握った短剣の、銀色の刃を煌めかせ、私とあるえを後ろに庇い、モンスターへと身構えた。

 まともな武器を持っているのはゆんゆん一人。

 どうやら、兎も殺せない小心者のクセに私達を守る気らしい。


 私の隣で、あるえが自分の冒険者カードをチラリと見た。

 この場で強力な魔法を覚えられないかを確認したのだろう。


 ……私なら、既に上級魔法を習得できる。だが、それをやってしまうと爆裂魔法が……。

 しかし、引っ込み思案で小心者なゆんゆんがこうしている以上、ここで私が、ゆんゆんに遅れを取る訳には……!

 

「闇色の雷撃よ、我が敵を撃ち貫け! 『カースド・ライトニング』!」


 そんな叫びと共に、一条の黒い稲妻がモンスターの胸を貫いた。

 声もなく崩れ落ちるモンスターを横目に声がした方を見ると、そこには、巨大な剣を肩に載せ、悠然とこちらに歩いてくる担任の姿。

 普段はちょっと問題のある教師だが、こんな時には頼りになるし格好良い。


 ――と、担任を呼びに行ってくれたのだろう、その隣にいたクラスメイトが。


「先生、魔法の詠唱も終わってたのに、どうしてあんなギリギリまで待ってたんですか!?」


「? 一番格好良いタイミングで助けるために決まってるだろう」


 ……ちょっとじゃなく、酷く問題のある担任教師だった。

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