2-4
立てつけの悪い我が家のドアを開け、玄関から中へと呼び掛ける。
「帰りましたよー」
ドタドタと廊下を走る音と共に、出迎えの大声が家に響いた。
「姉ちゃんお帰り!」
こめっこが、満面の笑みで玄関先に飛び出してきた。
ほっぺたに泥をつけ、ローブの裾も泥にまみれている。
どうやら、またどこかに遊びに行っていた様だ。
「こめっこ、どこへ出掛けているのかは知りませんが、なんでも里の周辺にまでモンスターが出没したそうです。妙なモンスターを見たとの話もあるので、あまり出歩いてはいけませんよ?」
「分かった! あんまりは出歩かない様にする!」
「……いいと言うまで、外に出ない様に」
と、こめっこが、玄関先で靴を脱ぐ私へ一枚の紙を渡してきた。
「……? なんですかこれは?」
「なんか、顔色の悪い綺麗なお姉ちゃんが来て、『こちらに凄腕の魔道具職人さんはいますか?』って言うから、凄腕の魔道具職人はいないよって言ったら、そうですかって言って、これを置いて帰ってった」
……?
よくよく見れば、それは魔道具の注文の紙のようだ。
その隣にはえらく達筆な字で、
『あなたの制作なされる素晴らしい魔道具の数々に胸を打たれました。ぜひとも、当店と良いおつき合いをさせて頂きたく……』
そんな文章と共に、以下、父を褒めちぎる内容が書かれている。
……確かに、父は魔道具を制作する職人だ。
だが、我が父の作る魔道具は強い魔力を持つものの、どれもこれもが欠陥品ばかり。
どこの店主か知らないが、他の職人と勘違いしているようだ。
もし勘違いでないのなら、この店主は商売センスが狂っているとしか思えない。
「まあ、他の職人と間違えたか、ただの冷やかしですね。店の所在地は駆け出し冒険者の街アクセルですか。名前は……」
と、私が手紙を最後まで読み終える前に、こめっこが服の裾をグイグイと引っ張りだした。
「姉ちゃんお腹空いた! 料理して! 材料は用意してあるから!」
「はいはい、今何か作ってあげますよ。……というか、大した材料はなかったはずなのですが。野菜か何かが余ってましたっけ」
――こめっこに引っ張られて台所に立つと、そこには調味料や皿が並べられ、既に鍋も用意されていた。
それらの横には野菜の切れ端などが置かれている。
貧乏な我が家においての、何の変哲もないいつもの材料。
野菜スープでも……と思っていると、鍋からカタカタと小さな音が。
「……?」
蓋を開けると、そこには……。
「……こめっこ、その、この子はもう少し太ってからにしましょうね」
「昨日よりは太ったよ! いつぐらいに食べる? 明日?」
「も、もうちょっと待ちましょう、もうちょっと」
今日は、こめっこに朝ごはんをたくさん食べさせたから大丈夫だと思って置いていったのだが、やはりこれからは学校に連れて行こう。
――うん、そうしようと決めると、私は鍋の中で震えるクロを抱き上げた。
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