1-11


「ねえめぐみん。今日は、小物屋に寄って行かない?」


 学校からの帰り道。

 確か、馴れ合うのは昨日だけだとの話だったはずなのだけれど、ゆんゆんはなぜか、今日も私の後ろをついて来ていた。

 まあ、こちらはライバルだとは思っていないので、別にいいのだが。


「小物屋なんてこの里にありましたっけ?」


「鍛冶屋さんが、趣味で小物を作り始めたんだって。その、め、めぐみん……」


「学校帰りに友達と可愛い小物を見るのが夢だったんですね、はいはい、行きましょう」


 ゆんゆんと一緒に、鍛冶屋へ寄り道をして帰る事になった。


「――おうらっしゃい! なんだ、族長のところの変わり者の娘と、変わり者のひょいざぶろーのところの娘じゃねーか。なんだ、何が欲しい? お前さん達みたいな子には、そうだなあ……。この巨大な大剣なんてどうだ? 大斧とか、ハンマーなんかもあるぞ」


「か、変わり者……」


「か弱い乙女になぜそんなゴツイ武器を持たせようとするんですか? そもそも、私達に武器なんて必要ないじゃないですか」


 そもそも、魔法使いの里に武器防具専門の鍛冶屋がある事が間違ってる。

 せめて、杖でも作ればまだ需要があると思うのだけど。


「女の子が大きな武器を振り回すのがいいんじゃないか。ギャップだギャップ」


「どこの世界にそんな女の子がいるんですか。……ゆんゆん、どうしました?」

 隣ではゆんゆんが、店内をキョロキョロと見渡している。


「あの、ここで、趣味で小物を作り始めたって聞いたんですけど……」


「小物なら、そこにあるじゃねえか。異様に長い剣だとか、複雑な形をした武器しか好まない紅魔族の者には不評なんだけどな」


 大柄な鍛冶屋の店主が、店の隅を顎で指す。

 確かにそこには、小物というか、ナイフ類というか……。


「世間一般では、小物と言ったら小さな武器ではなく、ファンシーなアイテムの事を言うのですが」


「そんな事言われても。ウチは客が来ねえから、こんな物でも扱わないと商売上がったりなんだよ」


 店を出す土地を間違っているのだと思う。

 と言うか、これでどうやって生計を立てているのか。


「その顔は、どうやって食ってんだって顔だな。俺だってアークウィザードの端くれだ。魔力をふんだんに使い、普通じゃ扱えない程の熱量を持つ炉を操って、上質の鎧を作ってるんだよ。これでも、一部の鎧マニアには俺の鎧は評判がいいんだぜ? 名前は出せないが、とある大貴族のお嬢様ですら、ウチの鎧を愛用してくれてんだぞ」


「大貴族のお嬢様がどうして鎧を愛用するのですか。ゆんゆん、そろそろ……」


 ゆんゆんは、銀色の短剣を大事そうに手に取ってそれを見ていた。


「……気に入ったのですか?」


 ゆんゆんがこくこくと頷いた。

 

 ――その後、ゆんゆんと別れて自宅に帰ると、今日もローブの裾を泥だらけにしたこめっこが駆けてきた。


「姉ちゃんお帰り! お土産は?」


「今日はお土産はなしです。というか、また外に出たのですか? 今、この里では、邪神の封印とやらが解けかかっていたりするそうなので暗くなる内には帰るんですよ」


 私の言葉をどこまで聞いているのやら、こめっこが私の抱いているクロを、ソワソワしながらじっと見ていた。


「……じゅるっ」


「!?」


 怯えるクロが、こめっこの手が届かない場所に逃げようと、私の肩に爪を引っ掛けよじ登る。

 飼い主様の体をよじ登ろうとするとは、なかなかに肝の据わった猫だ。


「姉ちゃん、晩ごはんはお肉だね!」


 愛玩動物も昆虫も、平等に食べようとする我が妹に少しだけ戦慄を覚えながら。


「こめっこ、まあ待つのです。こんなにやせ細った状態では、食べるところなんて殆どありません。なので、もっと太らせてから食べるのです」


「なるほど。姉ちゃん、頭いいね!」


 屈託なく笑うこめっこの、泥だらけの顔をハンカチで拭ってやる。


「で、こめっこはここのところ、外で何をして遊んでいるのですか?」


「おもちゃを見つけたから、それで遊んでる! 姉ちゃんもやる?」


 ……おもちゃ?


 なぜか、その言葉に引っ掛かるというか、気になるというか。

 そう、確か私が…………。


「姉ちゃん、お風呂入ろう! ついでにその子も一緒に洗っておこう! アク抜きって言うんだって!」


「こめっこ、私の肩でこの毛玉ががふるふる振動してますので止めてあげて下さい」

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