第一章 「紅い瞳の魔法使い達《ウィザーズ》」

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 ――それは、私にとっていつもの何の変哲もない朝の光景。


 担任の教師が、名簿を片手に名前を呼ぶ。


「出席を取る。……あるえ! かいかい! さきべりー!」


 担任に名前を呼ばれ、次々に生徒が返事をしていく。

 答える生徒は女子ばかり。

 この学校では、クラスは男女別になっている。

 生徒数が十一人しかいない小さな教室では、すぐに私の順番が回ってくる。


「めぐみん!」


「はい」


 私は最後に名前を呼ばれ、その返事を聞いた担任は満足そうに頷いた。


「よしよし、全員揃っているな。では……」


「せ、先生!」


 名簿を閉じようとする担任に、私の隣に座る子が、泣きそうな顔で手を上げた。


「ん? おおっ、すまん! そういや、一人だけ次のページに掛かっていたんだったな。悪い悪い! では……ゆんゆん!」


「は、はいっ!」


 ゆんゆんと呼ばれた、セミロングの髪をリボンで束ねている、優等生といった感じの子が、ちょっと赤い顔で返事をした。

 

 ――ここは紅魔の里と呼ばれる、紅魔族の集落にある小さな学校。


 ある程度の年齢になると、里の子供はこの学校で一般的な知識を身に付け、12歳になると、《アークウィザード》と呼ばれる魔法使いの上位職に就けられ、そして魔法の修業が開始される。

 生まれつき、高い知力と魔力を持つ紅魔族は、魔法を習得するまでは学校で修行するのが一般的だとされている。


 ここでは、魔法を覚える事が、即ち卒業。

 つまり、この教室の生徒達は、まだ誰も魔法が使えない。


 ここの生徒達は、皆、自分の使いたい魔法を習得するために、日夜スキルポイントと呼ばれる物を貯めていた。


 覚えたい魔法によって、必要とされるスキルポイントは変動する。

 より強力な魔法ほど、習得に必要とされるスキルポイントは多くなるのだ。


 そして、ここにいる子達の覚えようとしている魔法は既に決まっている。


 上級魔法。


 それは、魔法使いなら誰もが憧れる、強力な魔法の数々を使えるようになるスキル。

 紅魔の里では、これを覚える事で一人前とされるのだけれど……。


「それでは、テスト結果を発表する。三位以内の者には、いつも通り、《スキルアップポーション》を渡すから、取りに来るように。では、まず三位から! あるえ!」


 名前を呼ばれ、ポーションを貰いに行く気怠げなクラスメイトをちらっと横目で見て、私は窓の外をぼーっと眺める。


「二位、ゆんゆん! 流石は族長の娘、よくやったな! 次も頑張る様に」


「あ、は、はいっ!」


 隣を見ると、ゆんゆんが顔を赤くして席を立った。


 スキルポイントを増やすには、モンスターを倒して経験を得てレベルを上げるか、もしくは、スキルポイントが上がる希少なポーションを飲むしかない。

 なので、早く上級魔法を覚えたい皆は、このポーションを得るために必死だ。


「では。一位、めぐみん!」


 名前を呼ばれ、ポーションを貰いに席を立つ。

 隣ではゆんゆんが悔しそうな表情を浮かべてこちらを見ていた。


「相変わらずの成績だ、よくやったな! しかし、もう上級魔法を覚えてもおかしくないぐらいにスキルポイントは貯まっていると思うんだが。……まあいい、今後も励むように!」


 ポーションを受け取ると、席に戻って、再び窓の外に視線を戻した。

 二階の教室の窓からは、里の外までよく見える。

 子供の頃に会った名前も聞けなかったあの人は、今も元気で旅しているのだろうか。


 担任が他の生徒達に檄を飛ばす中、胸元から、そっと一枚のカードを取り出した。

 冒険者カードと呼ばれるそのカードには、職業の欄にアークウィザードと書かれている。


 レベルは1。

 その下には、スキルポイントが45と表示され。

 そして、習得可能スキルと書かれた欄には、《上級魔法》習得スキルポイント30という文字が光っていた。


「他の者もめぐみんを見習い、早く上級魔法を習得できるよう、頑張る様に! では授業を始める!」


 担任の声を聞き流しながら、カードのスキル欄に暗い文字で表示されている……、《爆裂魔法》習得可能スキルポイント50と書かれたスキルを指で触れた。


 紅魔族は上級魔法を覚える事で一人前とされるが、私の覚えたい魔法はそれじゃない。


 あのローブの人が唱えた、究極の破壊魔法が今でも脳裏に焼き付いて離れない。

 絶対に爆裂魔法を覚えたい。


 そして、いつかあのローブの人に。私の魔法を見てもらうのだ――

 

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