1-8
「はい、確かに。ジャイアントトードを三日以内に五匹討伐。クエストの完了を確認致しました。ご苦労様でした」
冒険者ギルドの受付に報告を終え、規定の報酬を貰う。
粘液にまみれたアクアとめぐみんは、そのままだと生臭い上、また俺があらぬ誤解を受ける可能性があるので、とっとと大衆浴場へ追いやった。
仕留めたカエルの内一体は爆裂魔法で消滅したため、クエスト完了の報告はどうなるのかと思っていたが、冒険者カードには、倒したモンスターの種類や討伐数が記録されていくらしい。
俺は自分のカードと、めぐみんから預かったカードを見せると、受付はカウンターに置いてある妙な箱を操作して、それだけでチェックを終えていた。
科学の代わりに魔法が発達した結果なんだろうが、この世界の技術もあながちバカにはできない。
俺は改めて自分のカードを見ると、そこには冒険者レベル4と記されている。
あのカエルは駆け出し冒険者にとってレベルを上げやすい部類のモンスターなのだそうだ。
俺一人でカエルを四匹狩った訳だが、それだけで一気にレベルが4に上がった。
低レベルな人間ほど成長が速いらしい。
カードに記されているステータスの数値が多少は上がっているが、あまり強くなったという実感は無い。
「……しかし、本当にモンスターを倒すだけで、強くなるもんなんだなぁ……」
俺は思わず呟いた。
受付のお姉さんは、最初の説明の時に言っていた。
この世のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めている。どの様な存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺す事で、その存在の魂の記憶の一部を吸収できる、と。
こういう所は本当にゲームみたいだ。
よく見ると、カードにはスキルポイントと書かれていて、そこに3と表示されている。
これを使えば、俺もスキルを覚えられるわけだ。
「ではジャイアントトード二匹の買い取りとクエストの達成報酬を合わせまして、十一万エリスとなります。ご確認くださいね」
十一万か。
あの巨大なカエルが、移送費込みで一匹五千円程での買い取り。
そして、カエル五匹を倒して報酬が十万円。
アクアの話では、クエストは四人から六人でパーティーを組んで行うものらしい。
なので、普通の冒険者の相場だと、一日から二日をかけて命懸けで戦い、カエル五匹の取引と報酬、合わせて十二万五千円。五人パーティーだったとして、一人当たりの取り分が二万五千円。
……割に合わねー。
クエストが一日で済めば日当二万五千円。
これだけ見れば一般人にしてはいい稼ぎに思えるかもしれないが、命懸けの仕事にしては割に合っていない気がする。
事実、今日なんてカエルがもう一匹湧いてたら俺も食われて、誰も助けることができず、あっさり全滅していただろう。
考えただけでもゾッとする。
一応ほかのクエストにも目を通すと、そこに並んでいたクエストは……。
『──森に悪影響を与えるエギルの木の伐採、報酬はでき高制──
──迷子になったペットのホワイトウルフを探して欲しい──
──息子に剣術を教えて欲しい── ※要、ルーンナイトかソードマスターの方に限る。
──魔法実験の練習台探してます── ※要、強靭な体力か強い魔法抵抗力…………』
うん。
この世界で生きていくのは甘くない。
冒険開始二日目にして、もう日本に帰りたくなって来た。
「……すまない、ちょっといいだろうか……?」
近くの椅子に座り、俺は軽いホームシックになっていると、背後からボソリと声がかけられた。
異世界の現実を見せつけられ、なんだかぐったりしていた俺は虚ろな目で振り向いた。
「なんでしょ…………うか…………」
そして、俺は声の主を見て絶句した。
女騎士。
それも、とびきり美人の。
パッと見た感じ、クールな印象を受けるその美女は、無表情にこちらを見ていた。
身長は俺より若干高い。
俺の身長が165センチ。
それより少し高いとなると170ぐらいだろうか。
頑丈そうな金属鎧に身を包んだ、金髪碧眼の美女だった。
俺よりも一つ二つ年上だろうか。
鎧のせいでその体型は分からないが、その美女は、何だかとても色気があった。
クールな顔立ちなのに、何だろう、被虐心を煽ると言うか……。
……っと、いかん、見惚れてどうする。
「あ、えーっと、何でしょうか?」
同い年みたいなアクアや年下なめぐみんと違い、年上の美人相手という事で緊張し、若干上擦った声になってしまう。
長い引き篭もり生活の弊害だ。
「うむ……。この募集は、あなたのパーティーの募集だろう? もう人の募集はしていないのだろうか」
その女騎士が見せてきたのは一枚の紙。
そう言えば、めぐみんをパーティーに入れてから、募集の紙をまだ剝がしていなかった。
「あー、まだパーティーメンバーは募集してますよ。と言っても、あまりオススメはしないですけど……」
「ぜひ私を! ぜひ、この私をパーティーに!」
やんわり断ろうとした俺の手を、突然、女騎士がガッと摑んだ。
……えっ。
「い、いやいや、ちょっ、待って待って、色々と問題があるパーティーなんですよ、仲間二人はポンコツだし、俺なんて最弱職で、さっきだって仲間二人が粘液まみれ、いだだだだっ!」
粘液まみれと言った瞬間に、俺の手を握る女騎士がその手に力を込めた。
「やはり、先ほどの粘液まみれの二人はあなたの仲間だったのか! 一体何があったらあんな目に……! わ、私も……! 私もあんな風に……!」
「えっ!?」
今このお姉さんはなんつった?
「いや違う。あんな年端もいかない二人の少女、それがあんな目に遭うだなんて騎士として見過ごせない。どうだろう、この私はクルセイダーというナイトの上級職だ。募集要項にも当てはまると思うのだが」
なんだろう、この女騎士、目がやばい。落ち着いた雰囲気のお姉さんだと思っていたのに!
そして、俺の危機感知センサーが反応している。
こいつはアクアやめぐみんに通じる何かがあるタイプだと。
……美人だが仕方ない。
「いやー、先ほど言いかけましたがオススメはしないですよ。仲間の一人は何の役に立つのか良く分からないですし、もう一人は一日一発しか魔法が撃てないそうです。そして俺は最弱職。ポンコツパーティーなんで、他の所をオススメしま……っ!?」
さらに女騎士の手に力が込められる。
「なら尚更都合が良い! いや実は、ちょっと言い辛かったのだが、私は力と耐久力には自信があるのだが不器用で……。その……、攻撃が全く当たらないのだ……」
やはり俺のセンサーは正しかったらしい。
「という訳で、上級職だが気を遣わなくていい。ガンガン前に出るので、盾代わりにこき使って欲しい」
女騎士が、椅子に座る俺に端整な顔をズイと寄せてくる。
顔が近い!
俺は座っているため相手から見下ろされる体勢なのだが、女騎士のサラサラの金髪が俺の頰に当たってドキドキする。
こんな所でも長期の引き篭もりによる弊害が……!
いや違う、単に思春期の童貞には刺激が強過ぎて、ドギマギしているだけだ。
落ち着け、色香に惑わされるな!
「いや、女性が盾代わりだなんて、ウチのパーティーは貧弱なんで本当にあなたに攻撃が回ってきますって。それこそ毎回モンスターに袋叩きにされるかも知れませんよ!?」
「望む所だ」
「いや、アレですよ。今日なんて仲間二人がカエルに捕食されて粘液まみれにされたんですよ!? それが毎日続くかも」
「むしろ望む所だっ!」
…………ああ、分かった。
頰を紅潮させて俺の手を強く握る女騎士。
それを見て、俺は悟った。
……こいつも、性能だけでなく中身までダメな系だ。
【この素晴らしい世界に祝福を! 書籍版に続く】
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