プリズンアクト
@megane3852
幕間
「目標の座標、補足しました」
錆びた鉄の臭いと凍りつくような室温の中で。
スクリーンを眺める女は、部屋の後方に控える集団に向けて声を張り上げた。
その声に反応し、わずかに立ち上っていた囁きがどよめきへと変わる。やがて集団の先頭にいた少女が前に一歩を踏み出した。
「座標情報を固定して、監視を継続してください」
薄手のライダースジャケットに身を包む少女は振り返り、どよめく集団に目を向ける。中でも一際ガタイの大きな男と視線が重なる。少女は問う。
「作戦内容に異存はありませんね?」
丸太のような腕を組んだ男は眉間に皺を寄せたが、渋々と頷いた。それに合わせて集団は散り散りに別れる。しかし、男はその場に留まり、なおも少女を見下ろしていた。
「何か?」
互いに敵意のこもった視線が交錯する。
「……」
男は何も言わず、持っていたヘッドギアを投げ渡した。頭頂部に二つの円環を持つそれは少女の腕の中にすっぽりと納まった。受け取った少女はヘッドギアを大事そうに抱きしめると、男を一睨みし、だだっ広い部屋の中央へと歩き出した。
そこには棺のような箱型のベッドが一つ。ベッドにはジェル状の液体が薄く溜まっている。各部には無数の光源が明滅し、それは部屋の隅に置かれた高さ3メートルはある巨大な端末の光と重なる。
「
ベッドに身体を埋めた少女は手にしたヘッドギアを被り、口元で揺れる酸素供給用マウスピースを装着する。すると、それを合図にシートの各部からジェルが流れ出す。ひんやりとした感覚に彼女の白い肌が震える。
足先から、指先から。大腿を沿い、肩を這い。やがて頭を吞み込む。
「……失敗は許されんぞ」
液体に沈む少女の耳元に男は囁いた。少女は咄嗟に声の方へ首を横たえたが、量を増したジェルが視界を覆い、男の表情が不意に歪む。彼女は目を閉じた。
「初期接続フェイズ完了。大脳神経系接続フェイズに移行します」
遠くで聞こえる女の声。意識が深く沈んでいく。
「コード:プリズンアクト始動」
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