終焉(LifeEnd)の明星

森村直也

草場に吹く風の行方:0

『チャンス』というものは落としてからくるモノなのだと、ユニは幼いなりに理解していた。


 チャンスだったのに。まだ若い男はユニへと零した。ベッドの上に身を起こして苦しげに咳き込むと、指の間から赤い滴を散らした。

 もう少しで手が届くところだったの。蒼白な顔をした少女は天井を睨みながら悔しがる。ユニが細い手を取ると、驚いたように見返した後で涙を一筋こぼした。

 もう一度チャンスがあれば。白髪の交じり始めた土気色した男は呻いた。あてがわれた部屋の小さなデスクにかじりつき、震える手でキーボードを叩き続ける。痛み止めの錠剤を過剰なほど摂取しながら。


 その誰もが、溶解性プレートの下、分解されきってしまうのを今や遅しと待っている。

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