4-17 襲撃 その2

 間違いない。俺と同じく、このグランイマジニカではないどこからか、いや、そんな曖昧なものではなく、俺と同じ世界、同じ国から来たのだと直感する。リク少年も、俺も、その他この世界にまねかれた勇者たちが抱える共通項。つまり、このグランイマジニカのゲーム的な世界観との親和性があるのだから。

 火トカゲの尻尾が砲兵、石頭モグラが工兵、ブラウンブラウニーが歩兵、ジャイアントスパイダーが投擲とうてき兵、人面蛾じんめんがと雑兵アリのセットが爆撃機。と来れば、次代の勇者の嗜好は間違いなく戦争ウォーシミュレーションだ。


「この魔物たちはお前があやつっているんだよなァ!!」


 声を張りあげると、魔人キリヒトは言葉を返すこともなく突きたてた親指を逆さまに振りおろした。合図を受けて、背後から次々とスケルトンドッグが跳びあがり、白い雪崩となって押しよせる。


「今度は騎兵か!?」


 むきだしの肋骨と背骨にしがみつき、ブラウンブラウニーが長槍を前に構えたまま馬車にむかって突進する。ユズハがころがるようにして魔物除け『フルラペラント』の境界内に逃げこみ、ネネの前には俺が盾として仁王立ちする。

 怒涛の勢いのままスケルトンドッグは馬車の左右へと分かれ、騎乗したブラウンブラウニーたちは疾風の速度で間近から槍を投げつける。

 ユズハは難なく身をかわし、数本の槍が馬車の外殻に突きたった。大きな的でしかない俺を狙った槍は、妖精王の鎧と聖鞘エクスカリバーに阻まれて肉まで達することはなかったが、それでもF級の魔物が放ったとはおもわれない衝撃と鈍痛に息が詰まり、ついで胃液がこみあげてくる。

 スケルトンドッグライダー(と仮称しておこう)たちは後方でくるりと方向転換すると、再び風をまとって馬車の脇を駆けぬけ、キリヒトの背後へと走りさった。切通は視界がせまいため、左右に散開されるとすぐに姿が見失ってしまう。

 

(ほら、来なよ)


 声は聞こえないものの、口がそう動き、人差し指がクイクイッと手招きする。

 キリヒトの横には相変わらず火トカゲのタワーが屹立きつりつし、間断なくファイアボールを打ちだしてくる。崖にはジャイアントスパイダーが貼りつき、すぐ手前にはブラウンブラウニーの縦列陣。そして、いつ飛びだしてくるかわからない騎兵隊。

 想像のなかですらキリヒトに到達する自分が描けない。すぐに体力が尽きることはないにせよ、いまのレベルでこの重囲を突破することは不可能。自分ひとりなら逃げきれるかもしれないが、その場合は馬車もろともセシア、ネネ、ユズハを置きざりにすることになる。

 だから、たとえ死んでもその選択肢は無い。俺が死ねば「光の守護」が発動して、王宮まで強制送還されることになる。パーティーメンバーは助かるものの、ミカエルとガブリエルがどうなるかまではわからない。いっそのこと、ここで解き放って後方から脱出させることも手だが、それは最後にとっておこう。

 いま採れる策は結局のところ、ひとつだけ。


「ネネ、ユズハ、悪いが、10分、いや、5分でいい。敵の攻撃をしのいでくれ」


 背中の後ろで三角帽子がカサリと揺れる。


「……任せて。10分もたせる」

「どうせダークストーカーを倒した奥の手というやつにゃ? F級がアタシに傷をつけることは無理にゃけど、こっちもギリギリにゃ。早く済ませて、すぐに戻ってくるのにゃ。わかったにゃ!?」


 ユズハがつらぬき丸を構えて、ネネの隣りに立つ。飛来する粘着糸を切って落とし、空を見あげることもなく落ちてくるギ酸からひょいと身をかわした。あいかわらず危険察知能力はずば抜けている。


「ありがとう。頼りにしている」


 ネネが両手を前に突きだすと、


「我、魔の探究者たるネネ・ガンダウルフは、安息と停滞をつかさどる土の精霊に問う。

 我が右手の先に、汝の力の結集たる石壁はあるか。

 我に仇なす者の行く手を遮れ! ストーンウォール!」


 石の壁が正面に生成されて、完全に道をふさぐ。自分たちも移動できなくなるが、これでしばらくは前からの火球を防げるし、ブラウンブラウニーたちが乗り越えようとしてもユズハの刺突で仕留めることができる。

 俺は馬車の戸をあけて、すばやく中に乗りこんだ。小型バスくらいある広い車内には向かいあわせに長椅子が置かれていて、そこにセシアが腰かけていた。ジャイアントスパイダーの姿を見ないように窓のカーテンが閉じられているため、車内はやや薄暗い。翡翠色の瞳だけが色鮮やかにこちらに向けられていた。


「魔物をあやつる魔人がいる」

「声は聞こえていました。エロースをつかうのですね」


 馬車の戸をそっと閉めた俺はセシアの正面に座り、うなずいた。


「協力してほしい。みんなを守るために。セシアの愛を俺に与えてくれ」

「覚悟はできています。ネネとユズハが外で必死に戦ってくれているというのに、私だけが守られている状況は耐えがたいものでしたから。このようなことでも、カガトどのの役に立てれば。

 でも、あの、や、優しくしてください」


 視線をそらせると、白い頬は朱色に染まり、耳まで真っ赤になる。

 ソファは4人掛けのゆったりしたもので、セシアを寝かせると、柔らかな肌触りの黒革のクッションが心地よく、足先まで伸ばしてもまだ余裕がある。

 なめらかな頬を撫でながらキスをする。最初から舌先をからめ、目と目で見つめあい、そして甲冑に手をかける。手慣れた作業で鎧の留め具をはずしていくと、愛憎度が星5つのB級になっているせいか、セシアも進んで協力してくれた。腰の装甲も脚甲も脱いで、キルト地のシャツとあとは下着だけという姿になったところで、俺も急いで自分の装甲をはずしてパンツだけになる。


「……カガトどの、いいですよ」


 消えいりそうな声でセシアが告げる。

 ソファに横たわり、両手で目を覆い、膝はぴったりと固く閉じられている。

 俺がシャツをゆっくりまくりあげていくと、白い花柄の刺繍がほどこされたブラジャーがまず目に飛びこんできた。首狩りカマキリのときも、ダークストーカーのときも、セシアはノーブラできつめのシャツに爆乳を閉じこめていただけであったが、ここにきてどういう心境の変化だろうか。ゆっくりと手で撫でると、シルクの光沢と薄い生地の先にあるおっぱいの柔らかさが俺の脳内に大量のドーパミンを放出させる。


「そんなにじっくり見ないでください。は、恥ずかしいです」


 目を覆った両手の隙間から、セシアの翡翠色の瞳が俺の様子をうかがっている。

 セシアのブラはおっぱい全体を覆うオーソドックスなタイプで、セクシーというよりも可愛いらしさを優先させたデザインだった。白を基調とし、どこかウェディングドレスを連想させる。


「最高だ」


 おもわずゴクリと生唾を呑みこんだ。

 これは認識をあらためなければなるまい。いままでの俺は下着という添加物にそれほどの価値を見出したことはなく、意識はその下の裸体に集中していた。いまにしておもえば、自分の幼稚さに呆れるばかりだ。

 目の前にある巨大なおっぱいを包みこむ天使の羽のごときこの布は俺の蒙昧もうまいをあざけるようにかくも神々こうごうしく秘されたものの偉大さを際立たせている。絵画に額縁がなければ物足りず、人はプレゼントをもらっとき、まずその絢爛たるラッピングに興奮する。いままさにブラに手を差しいれ、乳房の柔らかさ、秘められた突起に挨拶をかねて指で触れるこの至福! あえて隠すことによって、探索と発見の興奮を倍加する人類史における至高の叡智。無上の喜びとはこのことであろうか。

 そして、後ろのホックをはずすことで、目の前に飛びだす爆乳!! ベールを脱いだ花嫁の美しさにハッと息をのむかのごとき感動の対面!!

 おもわず涙ぐみそうになる。

 両手でゆっくりと撫でて、優しくつかみ、押しあわせて弾力を愉しみ、反対方向に伸ばして、桜色の先端をもてあそぶ。丹念に丹念に吸いつくような肌の質感をたしなみつつ、指で、舌で、味わうと、セシアのくぐもったあえぎ声が俺の脳幹を激しく揺さぶった。

 己の胸を蹂躙される羞恥に、声を押し殺そうとしているところがたまらなく可愛らしく、もっと敏感なところはないか脇の下や背中のくぼみまで調べ尽くしたくなる。


「このブラはどうしたんだ」

「ダ、ダークストーカー戦のあと、カガトどのが眠っている間に、ユズハに、お、お、お店に、連れて行ってもらいました」


 キスの合間に、セシアが由来を告白してくれた。

 肌を縦横に愛撫されて、全身が朱に染まり、瞳は熱にうるんでいる。


「か、カガトどのに、よ、喜んで、もらえたらと」

「とても可愛いよ」


 セシアがはにかんで笑う。

 全身をセシアのしなやかな身体に密着させ、そのなめらかな肌触りと迫力満点の乳房を直に肌で堪能すると、「性愛の神エロース」の効果によって俺のSPはすぐさま上限を突破し、周囲に激しく金色の粒子を噴きあげはじめた。

 

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『 カガト・シアキ 』

勇者リクの意志を継ぐもの。7人の嫁を求めて旅をしている。

【種 族】 人間ノーマ

【クラス】 勇者

【称 号】 性愛の神エロース

【レベル】 9(E級)→→→20(D級)

【装 備】 縞模様のトランクス(F級)

【スキル】 長剣(E級) 短剣(F級) 斧(F級)

      格闘(E級) 盾(E級)

      風魔法(F級) 聖魔法(F級)

      交渉(E級) サバイバル(F級) 乗馬(F級)

      性技(F級)

      救世の大志(E級)

      周回の記憶

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 ダークストーカー戦と同じく、ステータスのレベル部分が金色に点滅し、矢印があらわれて数字が刻々と上昇していく。全身から力があふれ、それ以上に性欲がはちきれんばかりにみなぎっているのがわかる。

 レベルは30を突破し、興奮度は危険水域に達した。すでに俺の下半身はとんでもない状態で、セシアの純潔をまもる最後の砦たる純白のショーツなど鎧袖一触し、そのまま城門まで突貫しかねない硬さと鋭さとなっている。

 鼻にかかった甘ったるいセシアのあえぎ声。息継ぎのために離した唇をすぐに覆い、舌をからみあわせる。汗でぬるりとすべる身体。前後にスライドさせることで、胸と胸がこすれあい、俺の凶刃がパンツを引きちぎる勢いでそそりたち、セシアの引き締まった太ももをこじあけていく。

 意識が白濁するほどの快楽。外の喧騒も搔き消えて、目の前のセシアの肢体だけが頭のなかにおおきくひろがっていく。種を遺すという生命の根源欲求が身体を突き動かし、舌が、指先が、腰が、無軌道に回転速度をあげていく。このまま歯止めが効かなくなれば、たまりにたまったSPが尽きるまでセシアと戯れてしまうにちがいない。そして、それを許容してくれそうなセシアの蕩けた表情が俺の欲望をますます助長させる。

 だが、外では今この瞬間でもネネとユズハが懸命に戦ってくれているのだ。俺は勇者として為すべきことを為さなくてはならない。


 ――バシッ!!!!

「え!?」


 つい今の今までセシアの爆乳を揉みしだいていた右手が、つい今の今までセシアの唇をむさぼっていた顔を、頬を打ち抜いた。

 驚きに目を見ひらくセシアに、赤くなった頬をさすりながら、


「ありがとう、セシア。もう十分に愛が充填された。なごり惜しいが、この続きはアリシア姫を救い、正式に結婚したあとに、たっぷりと」


 笑顔で無理やり終了を宣言し、なおもセシアから離れようとしない左腕を、ネネとユズハを助けに行くんだと脳内で説得して、右手をつかって引きはがす。

 まだ快楽の余韻を引きずったままの緩慢な動作で、セシアが両手で顔を覆う。


「私、ひどいことを考えていました。ネネとユズハが大変なのに、もうすこし、このままカガトどのを独り占めにしていたい、と」


 泣きそうな声で「どんどん淫らになっていくようで恐いです」とつぶやく彼女を抱きしめて、金色の髪を撫で、額に優しく口づけをした。


「俺は、正義感が強く、騎士のかがみのようなセシアも好きだし、俺の腕のなかで可愛くもだえるセシアも好きだ。本心をいえば、もっともっと淫らにしてみたい。俺の前だけでな」


 セシアがうなずいて、唇を差しだしてくる。

 俺は遠慮なくその唇を奪うと、ねっとりと舌をからみあわせた。

 それから装備を整え、股間を隆起させたまま堂々と馬車の外に降り立つ。


「遅いにゃ、カガト!」

「……守りきったよ」


 正面の石壁は半分ほど砕け、ブラウンブラウニーが馬車の間近まで迫っていた。

 地面には、青い血にまみれた3体のブラウンブラウニー、焼け焦げた2体のジャイアントスパイダーがころがり、苦闘のあとを如実にものがたっている。

 俺は龍王の剣を抜き放つと、


「ネネ、ユズハ、ありがとう。準備は整った」


 二人の横をゆっくりと通りすぎ、襲いかかってきたブラウンブラウニーを3体同時に一刀のもとに斬り捨てた。


「ここからは俺のターンだ」

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