第11話 帰領する準備をしました1
翌日、爵位継承の儀式も終わったので、領地へ帰る準備をする事になった。
まぁ、荷物と言っても、大した量ではないので、半刻も有れば準備が終わるのだが、また一々王都に来るのも面倒なので、二日くらい掛けて色々準備する事になる。
先ずは、ドンカッター商会に向かった。
番頭のドルトンにはいくつか依頼をしてある。
ドンカッター商会に到着すると、店員に番頭のドルトンを呼んで貰う。
奥から出て来た、エプロン姿のドルトンを見て驚く。
「リル様、これは申し訳ありまへん。今、昼食の準備をしとるんですわ
」
確かに、
「へぇ、ドルトンが料理をしてるのね」
「意外でっか?・・・これでも若い頃は、商人になるか料理人になるか迷ったものですわ」
「そうなんだ。でも、ドルトンみたいな料理人居そうよねぇ」
「でっしゃろ?・・・わてがこの道に進んだんは、鑑定のスキルを持っとるからでんねん。でなければ、料理人ドルトンここに在り・・・ちゅう事になってましたわ。」
「それはいいんだけど、料理の方は大丈夫なのかしら?」
「それは問題ありまへん。今は鍋を火から揚げて余熱で火を通しとる所ですわ。あとは、食べる前に再度温めるだけで大丈夫な状態ですわ」
「へぇ、そうなの?さすがねぇ。なら、今話をしても問題無いわよね?」
「問題ありまへん・・・話しというとあれでっか?」
「そうよ、白金貨のアクセサリーと探して貰っていた作物の事よ」
「わかりました。先ずは白金貨の件です。少々お待ちください」
そう言うと、ドルトンは応接間の店舗側入口の近くの棚の引き出しを開けて、小さな箱を取り出した。
「これでんな。ご確認お願いします」
渡された小箱を開けると、綺麗な装飾がされた白金貨のネックレスが入っていた。
ネックレスは、チェーンは金で出来ていて、白金貨は金製の型枠に
はまっており、その型枠には小さな赤い石と青い石が三つずつはめられていた。
「凄いきれいだわ。これ以上高価なアクセサリーは、そう無いわね」
「どうです?なかなかのもんでっしゃろ?赤と青の石は、ホンマは宝石なんですわ。だけど、小さいから屑石扱いなんですわ。細工費用的な事を言いますと、金の鎖と型枠の材料費と細工料で金貨三枚しか掛かっとらんのですわ。もちろん、前に言った通りお代は頂きません」
「ありがとう。大切にするわ」
「なになに、喜んで貰えて何よりですわ。それに細工師の方も新しい試みなせいか、創作意欲が湧いてきたと喜んでましたわ」
「そう、それは良かったわ」
「後、作物の件ですな。花を観賞に利用しているお芋、という事でしたがロロ芋の事でんな。市場にはあまり出回らないから探すの大変でしたわ。しかし・・・ホンマにこの芋でええんでっか?この芋食べれへんですよ?」
ドルトンはそう言うと、現物を渡してくれた。
(間違いない!じゃがいもだわ。これをたくさん作って、もっと領地の人口を増やさないと。目指せ州昇格!!)
「間違いない、これでいいのよ。確かにこのままでは芽の部分に毒が有って食べられないけど・・・ちょっと台所借りていいかしら?」
「構いまへんけど何をするおつもりで?」
「簡単だけど、美味しい物をご馳走するわ」
そう言うと、台所に行き、鍋に水を入れ、かまどに掛ける。
「レフィー、ちょっと風を操作して、火強くしてくれるかしら?」
『わかったわ。ようやく出番ね』
レフィーナは、風を上手く操作して、小さくなっていた火を大きくする。
(サラちゃんに頼むと、爆発するのが関の山だから、おいそれと頼めないのよねぇ)
「レフィー、丁度そのくらいを維持してくれる?」
『わかったわ。何とかやってみるわ』
直ぐには水は沸かないので、魔法うんぬんについて説明するわ。
先ず、魔法を使う為の魔力は、個々人の魔力量の多少はあるけど、誰しも・・・動物なら持っている。
大多数の人は魔力量が足りない為、魔法は使え無い。
では、煮炊きする為の火はどうするか・・・
火打ち石も有るが、今は魔法石が普及している。
魔力量の少ない人でも、魔力は多少なりとも扱えるので、火の魔法石に魔力を通す事により火を起こす事が出来る。
魔法石は希少な為高価だが、普段の煮炊きの火付け程度なら小さいので、
そろそろ沸いて来たので、ロロ芋を投入する。
ぐらぐらと煮えた鍋にロロ芋を投入すると、鍋の中で踊る様に動き回る。
(ホントは油を使って、ポテチやフライドポテトなんか作りたかったけど、油が高価だから、そういう使い方が出来ないのよねぇ。そろそろ日本食が食べたくなったわ・・・)
しばらくすると、芋に火が通り茹で上がる。
(バターが無いし、醤油も当然無い。塩だけど仕方ないわねぇ。塩自体も500グラム位で銅貨二、三枚位する上に、日本の精製塩の様な純度も無いし・・・)
「出来たわよ。二つに割って中の白い部分をスプーンですくって塩を少し掛けて食べて見て。先ずはわたしから食べてみるわ・・・これはこれでいいのだけど、やっぱり物足りないわねぇ・・・それではドルトン、召し上がって見て」
ドルトンは、恐る恐る茹でたロロ芋に塩を付けて、口の中に入れた。
「ほぅほぅ、これはなかなか旨いでんなぁ。ロロ芋がこんなに旨いとは驚きですわ」
「あとは、油で揚げて塩を少しふると、もっと美味しいのだけど、油が高価だからおいそれと作る訳にはいかないのよねぇ」
「それは残念でんなぁ。確かに
「それなんですけど、わたしの所にドンカッター商会の店舗を出してみる気は無いかしら?・・・確かに、リネルメは辺境領全体の人口は大体9,000人程しかいない零細領地だけど、ロロ芋も有るし、鍛冶師のターシャもリネルメに来てくれる事になってるし、わたしとしてはドンカッター商会に出店して欲しいのよ。正直な事話すわ。リネルメはもう待ったなしの経済状況なのよ。時間を大金出しても買いたい位に・・・それに今後領内の徴税の方法も、固定の人頭税から、各々の収入に因ってその二割を徴税する方法に変更するわ。農民の場合は、収穫した小麦の内八割を、相場を一年の大体の平均額を出して、その金額で買い入れ、そこから二割引いた金額を農民に渡すわ。買い入れた小麦は、平均額より高くなる時期から売却する予定でいるわ。その時、相場より安い額で小麦を入手出来るとしたら、ドルトンはどうするかしら?」
〈な、何て事を言うんでっかこのお嬢ちゃんは。徴税方法を変える?今でも州ですら人頭税なのに、収入に応じて納める形に変更?リネルメはほぼ全て農民しかいないと言っていい、商人ギルドも無ければ、冒険者ギルドも無い、王国最底辺の領地や。小麦の収穫高が増えればなんぼでも税収が増えるし、実際そうなるやろ・・・しかも、ロロ芋も有れば、ターシャ氏がリネルメ行きを決めてるし・・・それにや、有史以来開発らしい開発が全く行われていないあの大森林、言うてた計画やと相当量の木材が切り出されるはず。あの良質な木材、是が非でも手に入れたい。・・・ホンマとんでもない事を言う嬢ちゃんや。・・・とにかく、この話しに飛び付かん奴は商人名乗る資格は有らへん・・・ホンマ、この年になってもこんなに興奮するとは思わへんで〉
「わかりましたわ。この話し受けさせて貰います。と言うか他の者にこんな事任せてられまへん。このドンカッター商会番頭のドルトンめが直接乗り込ませて貰いますわ」
「そう?良かったわ。何とか独力で可能だけど、それだと何年かは計画が遅れたと思うから助かるわ」
「これだけの計画を独力で?・・・恐れ入りますわ」
ドルトンとの話し合いが終わると、あたしはターシャの所に向かった。
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