44.【ひび割れた月】


意味もなく寂しい夜は

 その胸に細い月を抱いて眠ろう


静かな水面にひとしずく

 器に小さな傷を作って去っていく


無数の傷は器を輝きで満たしていく

 それが割れるか割れないか


器を持つ者に託される──



赤い月と青い月

 どこかで悪魔が産声を上げた


天使がラッパを吹き鳴らす

 銀の光をまとったつるぎが悪魔に向かって飛んでいく


「そこにいた! そこにいた!」

 蛇が高らかに叫ぶ


黄金こがねの帯が空に舞う

 伸ばしても その手は届かない


それでも人は手を伸ばす──

 高みへ己を導くために 拳を強く握りしめ


割れて割れて 強くなる

 きらきらと乱反射 黒はその場を失っていく


残された黒 光をまとい癒しを与える



ひび割れた月が


「ほら、あなたの手には星があるよ」と小さく笑う




2012/9/14

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