第1章 3節
アリンフォート幼年学校のカリキュラムは基礎科目と兵役時の配属兵科により非常に細分化された専門科目で構成されている。
例え同じ兵站系部隊であっても、後方では物資提供元となる国内名士とのパーティーでのダンスまで必要とされるが、前線では如何に敵の監視を掻い潜って戦闘中の部隊まで補給を送り届けられるかについて要求される、と言った具合に。
その配属先は様々な過去数十年のデータから統計的に指定され、本人に通知されるのだ。
しかし一部について、則ち将来の希望兵科が存在する場合、希望兵科への適性が平均値を超える場合のみ、本来の配属先と二足の草鞋を履く事になる。
そして。
「エレナ=グリーシス君。申請は見た。」
彼女は希望兵科についての申請書類を入学後二週間で提出した。
既に適性はARMSの操縦、次いで技術開発に対して高い評価を示しているのだが。
「君の本来の兵科は知っているかね?」
軍事教練の統括を行う教官は問う。
幼年学校入学後二週間はやはり早過ぎた。
本来この申請は10歳の頃に行うモノである。
科目の最低履修単位としてその年齢から上級学校進学迄に基礎を学習するからだ。
つまり。期限は2年後迄と設定されているが何時からとは決まっていない。
入学二週間で申請書類を提出する事、即ち8歳から志望兵科が存在する事については
最初から想定されてはいないのである。
「ARMS操縦適性により前線士官です。」
パイロットは全て前線士官扱いだからだ。
故に彼女の申請は異例であった。
だが彼女の眼に揺らぎは無い。
これ以上言い募っても無駄だろう。
「申請内容を確認する。技術士官志望と書いていたな?」
高いパイロット適性は無視出来ない。
「扱いは恐らくテストパイロットだろう。」
適性が高いパイロットを完全に遊ばせて置く余裕は流石に我が国の現況には無い。
いざとなればそのまま前線送りだろう。
「間違いは無かったかね?」
教え子の中でも一際能力の抜きん出た一人。
彼女の鉄色の制服を着こなした姿は目立つ。
だが、彼女はその外見を差し引こうとも、全般的に高い成績を持つ点から周囲に一目置かれている様だ。
序でに距離も置かれている様だが。
「はい。教官。」
又、この眼だ。
血に淀んだ様な眼。
彼女の家名はグリーシス。
軍の名門の家系の名を継いだ血縁の無い娘。
成績は優秀。実技も上手い。
だが、部下として扱うには表情が読めない。
「間違い有りません。」
長年の教官職による経験上、幼少期からこの様な濁り淀んだ眼を持った人間は良くも悪くも将来的に突出した才能を発揮する。
表情が読めない事は非常なマイナスだ。
だが。
「再三に渡る確認、有難う御座います。」
今目の前で普段の無表情と見分けの付かない微笑みを見せる少女の将来が、見てみたくなった。
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