流れる


 一筋、二筋、三筋、四筋・・数え切れない傷。

深いの、浅いの、縫い跡があるの、そんな傷が左腕ー手首から肘にかけての内側ーにいっぱい。いっぱいいっぱいある。


 12年前の夏、私はとにかく消えたかった。死にたかったんじゃない、消えたかった。だって死ぬのは怖いから。

 だから腕を切ってみた。手始めにポーチに入っていた眉毛剃りで。

 今のカミソリって安全刃なの。ちょっと強めに腕に当てて引いても、引っ掻き傷みたいなちっちゃな傷が付くだけなの。それでも。

 引っ掻き傷みたいな傷から滲む血に私は快感を覚えたんだ。



 「なんでそんな事してたの?」なんて聞かれるけど正直分からない。

 血を見て生きている実感が欲しいとか誰かに気付いて欲しいとか言い表せない苦しさを自分にぶつけてるんだとか単に構って欲しいとかとかとかとか。全部そうであって全部違うような気がする。結局分からないんだ。



 どうして切っているのか分からないのに、不思議な事に傷の深さと数はどんどん増していく。きっとドーパミンか何かが出てたんだろう。だって悲しくも苦しくもないのに、むしろハイな気分なのにザクザク切ってたから。


 でもなんでだろうね。切った後はいつも泣いていた。

 こんな自分に悲観していたんだろう。




 全く。自分の事なのに自分にも分からない。

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