少女戦隊ドリーム5⑤
◆
「反省会をしましょう」
正座だ。
猫耳をつけた茶髪の成人男子と向かい合い、仕方なく要も正座した。
真夜中十二時。遅くなった食事も風呂も済ませ部屋に戻った要に、タマは叱るような顔をする。
「だから目を閉じてくださいと言ったでしょう?」
「いや、あれは誰だって見るよ」
見ないと言う強者がいたらそいつの顔こそ見てみたい。
「あの術は、男性ばかりか女性までも掛かってしまうような強い魅了の術なんです。初めてくらったのでは仕方ありませんが」
タマははぁとこれ見よがしにため息をつく。
「ステッキを敵に奪われるなんて前代未聞ですよ」
「……それはごめん」
「まったく、ドリームピンクの自覚あるんですか?」
「ないよ!!」
切実にハリセンの必要性を感じる。
結局魔王から羂索は奪えなかった。それどころか要はあのアイドルのような少女にステッキを奪われ、魅了の術を掛けられたのだ。
時間が止まったかのようにぼんやりしていて、気がついたときには少女も魔王も消えていた。
「で、あれは誰なの?」
タマは少女を知っているようだった。思ったとおり、苦々しげな顔をする。
「あなたの前任者ですよ。ドリームピンクとして私が選んだんですが、裏切って魔王に寝返ったんです」
「魔王優しそうだったもんね」
「あなたも裏切るのですか!?」
そういうわけではないが、世界を滅ぼすような悪人には見えなかった。
第一印象には威圧感があったが、その後の戦闘での動揺ぶりは凄まじかった。落下から救ってくれたうえ、攻撃に「ごめん!」とまで言われてしまったのだから、悪い魔王ではないのだろう。
「とにかく、私はあの
タマは疲れたように、こめかみに手を当てる。
「テンプテーションは彼女の十八番だったんですよ。それをあなたにやれと言う方が無理がありましたね」
「そりゃどうもすみませんね、色気より打撃で」
ピンクドリームを見せるよりもクラッシュする方が性に合っているということだろう。
嫌味は華麗にスルーして、タマはもっともらしく要に目を向けた。
「ですがこれで理解できたでしょう? 人それぞれ得意とする力が違うんです。ステッキはそれを形にして表します」
「ふーん…………。どういう構造してんの?」
とてつもなく不思議な、科学で説明のつかないことが起こっていることは確かだ。
疑問にタマはさもあらんとうなずく。
「この世界にはアイテールという『
「わからん! もういい!」
「あきらめが早いですねー」
ごちゃごちゃと説明を聞いたところで、自分に理解できるとは思えない。
「要するに不思議ってことだ。もうそれでいい」
「要し過ぎですがまあいいでしょう。とりあえず、私は新しい力を手に入れてきます」
よっこいせと腰を上げたタマに、要は眉をひそめた。
「……どうやって?」
「ちょっと待っててください。私が行ってきますから」
「どこに?」
「だから新しい力のある場所ですよ。すぐに帰ってきますから待っててくださいね」
「……あのさ……。一回戦ったんだから、あたしはもう終わりだよね?」
嫌な予感がして上目づかいで見上げたが、案の定タマは「は?」と言わんばかり
に顔をしかめた。
「なに寝言言ってるんですか、まだまだ戦ってもらいますよ」
「話が違う! 一回でいいって言ったじゃない!!」
寝言を言うなとはこちらのセリフだ。
食って掛かればタマの瞳がすっと細くなる。
「あなた、家族が人質に取られていると分かってるんですか? その気になれば私は何だってできるんですよ?」
「あんたは悪役か!」
「悪でも正義でもどちらでも結構ですよ。私は目的のためには手段を選びません」
「あたしは言われたとおり一回戦った!」
「私の一回は“魔王に勝つこと”ですよ」
「あたしの一回は戦うだけ!」
「私がこうといったらこうなんです。私はあなたに決めました」
なんという横暴な猫男だ。タマはこれ見よがしにあごを上げ、上から要を見下ろす。
「だいたい、ステッキを敵に奪われたくせに知らんぷりですかぁ? ちょっと無責任じゃないですかぁーあ?」
「ぐぬぬぬぬぬ……っ!」
それを言われては返す言葉がない。
「じゃあ、せめて着替えだけなくして!」
前ドリームピンクの変身を見た限り、裸体的な何かがあった。いくら光が眩しくて見えにくいからといっても抵抗がある。
しかしタマは首を横に振る。
「着替えシーンは絶対必須なんです」
「なんでよ!?」
怒りにまかせて胸ぐらを掴むと、タマはうんざりした顔で言った。
「女性が苦手なんですよ。魔王は」
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