第3話 英雄達

 マックスがコックピットの座席に座った。目の前には、起動されていないパネルが広がっていた。M4の時にはつけられていなかった、レバーもあった。

 マックスは、黒いパネルに手を置いた。パネルが全て光った。

 ハッチが大きな音を立てて閉まり、ホログラムが浮かび上がった。


PACIFIC ARMY SPACE MARINE CORPS SPECIAL WARFARE GROUP 1

太平洋軍宇宙海兵隊特殊戦グループ

ORBITAL DROP ASSAULT RECON FORCE

軌道降下強襲偵察部隊

1st Battalion ,3rd Company,1st platoon,1st Squad

第一大隊、第三中隊、第一分隊

Jhonson "MAX" Saito pvt

言語変換、日本語。 

アクセスレベル3以下拒絶。

アクセスレベル4、認証。

起動しますか?はい。いいえ。


 マックスは、はい、に指を置いた。

 駆動音。

 マックスの目の前に、照準が浮かび上がった。赤い十字の照準。中が開いていて、 下の線は矢印のような線と、数字の目盛りがついていた。

 マックスが右に視線をずらした。25ミリ弾。APDS弾と炸裂弾の選択ができる。その横に数字があったはずだが、残弾はどちらもゼロだった。

 右下の、ハードキルシステムの残弾もゼロ。

 左上には、レーダーがついていた。マックスが、何も動かさずに生体感知レーダーに切り替えた。ルビーとケンの、青い点が二つ浮かんでいた。

 左下にECMとECCMの表示がついていた。特殊な煙幕を出し、人間も機械も欺くスモークの残弾もゼロ。死んだ男が、全ての弾を使っていた。

 EMP弾の表示があった。これは、手がつけられていなかった。弾数が10発。マックスは目を細めた。右上の表示には、マニュアル、自動操縦、ダウンモードがあった。

 マックスはダウンモードを選択した。何も変わらなかった。

 マックスはウォーカーの腕を動かそうとした。何も動いていない。レバーを触った。

 ウォーカーが前進した。家が揺れて、ルビーとケンが叫んだ。

 マックスはウォーカーを停止させて、ハッチを開けた。マックスはハシゴを滑り落ちるように降りた。ケンに向かって、歩き始めた。

「これに乗ってたのは、誰だ」、マックスは同じ質問をした。

「特殊部隊の男だ」

「アクセスレベル4の男なんて、ほとんどいない!サイモンだ。この街で行方不明になった、サイモンがお前に託したウォーカーだ」

 マックスは、ライターを取り出した。ルビーからは射撃場の時に返してもらっていた。ライターを取り出した。

「このライターを持っていたのが、サイモンだ」

 ケンは目を見開いた。

「お前、じゃあ特殊部隊にいたのか」

「俺はずっとサイモンを探していた。戦傷で後送されて、この街で消息を絶った!」

「なぁ、俺の聞き間違いでなければ、海兵隊のあのODARFにいたってあのウォーカーは言ってたよな」

「あぁ」

「イオで、陽電子爆弾で消し飛ばされたはずだろう。ODARFの3000人のうち、生き残ったのは分隊の11人だけと聞いてる」

 マックスはずっと黙っていた。数分ほどしてから、口を開いた。

「あぁ、俺が、その分隊にいた。分隊は家族みたいだった。それで、イオの軌道上の強襲揚陸艦からドロップシップで下りてたときに、対空EMP砲弾を食らって、ドロップシップの舵が利かなくなった。降下地点から600km離れた。奴等は、本隊の降下地点に陽電子爆弾をぶち込みやがった!爆発から半径580kmの人間が死んだ。中国の民間人200万も消し飛ばされた!俺達海兵隊18万人のほとんどは消し飛んだ!だがイオの上陸作戦に参加した中で、俺達だけは生き残った。だから、生き残りを探して、ずっと旅をしてたんだ。ここに来たのは、サイモンを探してたんだ。他の10人は終戦後行方不明だ」

 マックスは叫んでいた。

 ケンとルビーは、立ちすくんでいた。

「なぁ、サイモンの最後を聞かせてくれ。俺の親友の最期を」、マックスは言った。

「その男は、これに乗ってた。俺はこの場所にずっといた。中国軍共に、ここは死んでも譲る気はなかった。俺はずっといた。太平洋軍は必死に国境で防衛していたが、遂に防衛戦が破られ、中国軍の機甲師団がやってきた。大量の砲兵が、電子励起爆弾を使って榴弾砲や多連装ロケット砲で砲撃してきた。民間人なんてお構いなしだ。奴等、空港や宇宙港を潰しやがったから、逃げられなかった。俺は死ぬと思っていた。ここでな。ついに中国軍がEMP弾で太平洋軍の対地ミサイル網や砲兵や戦車を麻痺させて、戦車やウォーカーや歩兵で突撃してきた。数百メートル先で、歩兵が殺し合ってた。俺は最後のウィスキーを飲んで、M300ライフルとM40ミサイルランチャーを持った。建物の上に上がって、海兵隊の連中と一緒にあいつらを撃ちまくった。俺は20人は殺したと思う。だが、あいつらは尋常じゃない数だった。EMPランチャーを打ち込まれ、M40は使えなくなった。防衛戦は中国軍の戦車で破られ、ついに中国軍のホバー戦車が数十m前までやってきた。兵隊は数百人もいた。俺は、地下のありったけの電子励起爆薬を起爆するためのスイッチを持っていた。まだ銃を撃っていた。俺は、腕に7.62ミリを食らった。血が止まらないと思って、スイッチを押そうとした。すると、あいつが現れたんだ」

 ケンの目が赤くなっていて、声が震えていた。大男が涙を流していた。

「白いウォーカーが、あのメイスで、戦車を目の前で突き刺して、ぶっ壊した。敵の歩兵をメイスでなぎ倒して、目の前の、200人の中国兵を全部なぎ倒しちまったんだ、踊るように、奴はエースだ。その先の戦車に、25ミリを撃ち込んで、全部破壊した。敵がEMP弾をウォーカーに撃ち込んだ。俺はもうダメだと思った。しかし、そのウォーカーは止まりすらしなかったんだ。そいつはこう言った。あとでその酒をくれよ、ってな」

 ケンの唇が震えていた。

「奴はたった一人で、防衛線を押し上げちまった。味方の海兵隊も増援でやってきた。しかし、急にウォーカーの動きが止まったんだ。エネルギー切れになった。ウォーカーが敵の歩兵のライフルの炸裂弾を喰らって、ずたずたになった。俺はライフルを撃ちまくりながら走って、ハッチからそいつを引きずり出した。サイモンを、俺の家まで連れ帰った。防衛線が下がって、またぎりぎりになった。俺はサイモンをよく見た。そいつは腕がなくなっていた。撃たれてからじゃない。もともとケガしてたんだ。パネルの破片が腹を貫いていた。俺は治療したんだ。だが、サイモンはダメージを食らってた。治療用ナノマシンはもう、軍ですら切れてた」

 マックスは拳を握り締めて、震わせていた。

「サイモンは、ウォーカーを隠してくれと言った。俺はその通りに、車を使ってウォーカーを引っ張って、うちの地下に隠した。サイモンは、ウィスキーを欲しがった。最高のをくれてやった。ウォーカーを、大切にしまっておいてくれ、と言った。あんた、英雄だよと、俺は言った。特殊部隊だから、当たり前だろと言いやがった。少しすると、サイモンはその重傷の体で立ち上がったんだ。俺のM300をひったくって、炸裂弾とAPDS弾を持っていって、走って上に行った。俺は止めようとしたんだが、あいつは、それを撃ちまくった。中国軍はまた、ホバー戦車で突撃してきた。俺はサイモンと一緒に撃ってた。味方は敗走した。その敵を全部、神がかり的な射撃で、弱いとこを撃ち抜いて、沈めちまったんだ。信じられるか?月で、片手で撃ち抜いたんだ。敵軍にそれを炸裂させまくった。ビルが崩れ落ち、前の全てが廃墟になったんだ。サイモンは7.62ミリを腹に食らった。まだ撃ち続けた。最後に頭を吹き飛ばされちまった。炸裂弾が切れても、EMPを撃ち込まれて、特殊弾薬が使えなくなっても、まるで鬼神だった。陸軍の増援がようやく来て、防衛線はどっかに行った。俺はサイモンを埋めた」

 マックスは唇を噛み締めた。

「このウォーカーが、サイモンの形見だよ」

 マックスは何度かうなずいた。

「あいつは英雄だよ。兄弟みたいなもんだった。ありがとう」、それがマックスの発した言葉だった。

 家の上で、大きな物音がした。

 マックスとケンとルビーは上を見上げた。十人近い足音。

 マックスは、拳銃を抜いて、安全装置を外した。両手で構えて、階段の前へ立った。

「上に行こう。早く」

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