散歩道

乃莉麻木

第1歩

ジリリリリリリリリリリリリ


けたたましいアラーム音が響いた。もぞもぞと布団の中のいも虫がうようよと這い出て時計に手を伸ばす。そしてまた、動きが停止する。どうやらこのいも虫は朝が苦手なようだ。


と、突然ドアが乱暴に開かれた。

「沙智!起きろ!置いてっちゃうからな!」

布団を引き剥がされ、外気にさらされて縮こまるいも虫…こと沙智が抗議する。


「あぁ〜もう〜今、病院で孝がトラと追いかけっこしてていい展開だったのに〜」

「どーゆう状況だよそれ、全然面白くねえよ。」

ぶすっとして孝が返す。

「五分で準備しろよ。さもないと置いてっからな。」


そんな無茶を。花も恥じらう乙女にそんな早業芸ができるわけない。

と思いながらもわたしは急いで支度をし、家を飛び出した。口にはもちろん少女漫画のごとく朝食をくわえて、である。


「おお、6分、惜しい。てか、お前ほんとに女かよ。」

「ほふんへっへひひっふぁほふふぁひふぁふぁひへほ!」

「ん?5分でって言った孝が言わないでってか?」

ご明察。なんでわかったのだろう。


今日はいい天気だ。道を突き進みながら辺りを見回す。厳しい冬の寒さに耐え抜いた花々が顔をのぞかせ、空気も仄かに暖かい。

忙しなく口を動かしながら私は孝と高校までの一本道を歩く。

ちなみに今日の朝ごはんは、Jam on Toastである。…ん?Toast on Jam…?まぁいいや。


これが私たちの日常である。


孝は私の幼馴染で、いつも側にいるのが当たり前になっていた。

嬉しい時も楽しい時も、側にいてくれた。

何より悲しい時はいつも側にいてくれたことが心強かった。そういえば、私は孝の悲しむ場面を一度しか見ていない。


私にだけ見せてくれた弱い部分。最初で最後の瞬間。だから、たまに心配になる。


いつか、孝は独りになるんじゃないか 何もかも1人で溜め込んで壊れてしまうのではないか、と


知らぬ間に私の思考は奥まで潜り込んでいて、学校にたどり着いたことに気づかなかった。

孝に続いて玄関を通り階段を上って3-Sの標識のついた部屋に入る。 私の席は孝の隣である。

なんたる縁。


窓の外をみると青々と澄み切った空。

そこにちょうど飛行機が通りかかった。くっきりとした飛行機雲を引き連れて。


どうやら明日は雨みたいだ



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