太陽くんの絞首刑


 男の子も女の子も白い無地のダボっとした服を着ている場所でマリは暮らしていました。この施設の外へは出られず、白い部屋の中を歩き回りながらみんなでおしゃべりをするだけの日々です。マリはこの日は男の子とおしゃべりをしていました。


 すると突然、相手の男の子が大人たちに取り押さえられ、どこかへ連れて行かれました。彼の名前は『太陽』。どうやら何か罪を犯したようです。数時間後、彼に絞首刑が言い渡されたという噂をマリは聞きました。驚いたマリは太陽くんが拘束されている部屋へ行きました。太陽くんは泣いています。顔中が涙の跡でぐちゃぐちゃです。彼から話を聞いたところ、何も悪いことはしていないのですが太陽くんは大人にとって都合の悪い存在らしく、それで無実の罪を着せられて処刑されてしまうのだそうです。


 理不尽で恐ろしい理由でしたが子供の力ではどうすることもできません。太陽くんは泣きながらも覚悟は出来ているようでした。彼の瞳はとても清らかで強い眼差しをしています。その眼を見て、彼が本当に罪無く処刑されるのだとまりは確信しました。罪人には出来ない、強くて美しい眼差しです。


 マリは太陽くんに、涙を拭うハンカチを渡しました。気に入っているバラ模様のハンカチです。太陽くんは「これを僕の処刑の時に持っていってもいいですか?臆病にならないためのお守りにしたいのです。」とまりに言いました。「もちろん。」マリは答えます。刑は明日、施設内の教会の中で執行されます。



 翌日——扉を開けた正面の壁には大きいけれど簡素な十字架が飾られていてその前には神父さんがお話をするときに使う講壇が置いてあります。そして信者たちが座るのに使う長椅子にマリを含める子どもたちは腰掛けました。


 太陽くんは教会の中央辺りに立っていて手を後ろで縛られています。彼の前には絞首用のロープがぶら下がっていました。みんなが座ると誰かの号令が掛かり太陽くんが縄に一歩、二歩と近づきました。するとマリが目を閉じたのか、または部屋の照明が落ちたのか……視界が真っ暗になりました。続く沈黙と暗闇の中、マリは太陽くんのことや死について考えました。とても長い時間に思えましたが、それは実際はほんの数秒のことでした。


 パッと視界は元のように明るくなり、中央で首を吊られている太陽くんが見えました。彼の肌の色は紙粘土のようになっています。もう絶命しているのでしょう。マリは恐怖を感じました。子供が自ら縄に頭を通して首を吊るにはどれほどの勇気と覚悟が要ったことでしょう。太陽くんの体は死後硬直で、吊るされたままガタガタと震え始めました。そのまま太陽くんの遺体は床へ降ろされましたが、痙攣しながら起き上がり、マリの方へ歩いて来ました。


 太陽くんの遺体はマリの肩を強く掴むと何か言いたそうに震えて床に倒れて、今度こそ本当に動かなくなりました。

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