赤子猫

 今日は電車に乗ってお出かけをしています。もうすこしで目的の駅に着くという頃、マリは自分が靴を履いていないことに気が付きました。家を出たときは間違いなく靴を履いていました。どんなにぼんやりとしていても道を歩けば靴を履いていないことには気が付くでしょう。ならば失くしたのは電車の中ということになります。「きっと座った時にうっかり脱いでしまったのだわ」そう思うとマリは人目を気にせずしゃがみ込んで座席の下を覗き込み、靴を探しました。


 なかなか見つからず、いくつかの座席の下を覗いていると、ちいさな塊を見つけました。靴にしては大きいです。床に頬を付けてよく見てみるとそれは人間の赤ん坊でした。死体かしら? そう思って観察していると、わずかに動いています。生きているようです。マリは手を伸ばしたり「おいで」と呼びかけてどうにか赤ん坊を引っ張り出しました。そして一先ず抱っこをして「さて、この子、どうしよう」と考えました。不意に、赤ん坊はするりとマリの腕の中から抜け出ました。赤ん坊を落としてしまった! 慌てて拾い上げようとして下を見ると、赤ん坊は子猫になっていて、みゃお、と可愛らしく鳴きました。マリは子猫を撫でてしあわせな気持ちになりました。

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