人形部屋の死者の窓

 人形のパーツがたくさん落ちている水浸しの部屋でマリは一体の人形を手に持っていました。その人形は、頭部は女の子なのに体はすこし筋肉質な男の子のものです。人形は浅く、ゆっくりと呼吸をしています。


 マリは人形に「体を女の子用のものに換えましょうか?」と訊いてみました。すると人形は「それって、この身体とどう違うの?」と訊き返してきたので「女の子用の体は、もっと柔らかそうで丸みがあって可愛いの」と答えると「じゃあ、換えてちょうだい」と言われました。


 その時、なんとなくこの人形の機嫌を損ねたら大変な事になるような気がしたので、マリは足下に散らかっている人形のパーツの中から、真剣に、一番良いものを探しました。そして女の子の人形用の丸みのある体のパーツを見つけましたが、その体には手足が付いていません。恐る恐る人形の体をそれに付け換ると、人形は満足そうにうっすらと笑いました。手足が無くても気にならないようです。


 部屋の壁には人の顔が入るくらいの縦幅で、横幅は2メートルくらいの長方形の窓のような穴が開いていました。それは、死者が『この世』の様子を覗き見るためにある窓なのです。マリはいつ死者がその窓から顔を出すか気になり窓をちらちら見ながらその部屋で過ごしました。


 しばらくすると窓から茶色い髪で付け睫毛をした今時風の女の子が顔を出しました。それは楽しそうに部屋の中を覗いていましたが、不気味な貼りついたような笑顔をしていて瞬きひとつしません。見開いた目で瞳だけきょろきょろさせて辺りを見回していました。


 マリはそれが知り合いの誰かの顔であるような気がして、その顔をじっと観察しましたが結局誰なのか思い出すことはできませんでした。

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