ガーデンワークス

鳳小竜虎

第1話

 一年前、俺はビッグウェーブに乗り遅れた。

 何てことはない。

 いわゆる農ゲーの《GW》何て俺はやらないし、

 善行を行うことでキャラクターメイキングを可能にする《HW》は性に合わなかった。

 そして悪行を行うことでそれが出来る《VW》は都市伝説だと思っていたからだ。


 さて、ここで当時のニュースを振り返っておこう。

 VRMMO製作第一人者である佐伯の作ったゲームがいわゆるデスゲームと化したらしい。

 しかもただデスゲーム化した訳ではない。

 彼女の作った三つのゲームである《HW》、《VW》、《GW》。

 それら三つのゲーム世界が《GW》の世界を基調に一つになったらしい。

 元々都市伝説とまで言われた《VW》の存在が明るみになっただけでなく、

 既に少なくない死者が出ていることも相まって、朝から晩までそのニュースが流れていた。


 被害者たちの家族が涙ながらにインタビューに答えている姿もばんばん放送された。

 だけどこいつらには思わず失笑してしまったものだ。こいつらはわかっていない。

 何がわかっていないのか。

 その答えは、被害者たちは今頃歓喜に咽び泣いていることだ。

 考えてみればすぐにわかるだろう。

 ログアウトが出来ないという言い訳をして、奴らは大手を振ってVRMMOをやり続けることが出来る。


 死ぬかもしれないのだと人は言う。

 だけどそれは自分から接続した癖にゲーム内での生き方を知らないマヌケだけだ。現実世界だって俺みたいな、リアルの生き方を知らない人間からしてみればいつでも死ねる。

 しかもリアルは強制接続だ。

 さらにはお金を出して武器防具を買えば何とかなるものでもない。

 ゲーム世界の方がよっぽど生きやすい。

 残念だ。どうして佐伯は俺好みのゲームを作らなかったんだ。


 そう当時の俺は思ったものだった。


 しかしその気持ちは今日消えた。

 俺の《フルダイブインターフェイス》、通称--《ベッド》に《GW》のアプリがいつの間にかダウンロードされていたのだ。

 もちろんいつもだったらガン無視だ。そんなのは当たり前だろう。

 しかし物が《GW》なら話は別だ。ウィルス感染のリスクを冒してでも試す価値はある。

《GW》へログインさえ出来ればリアルなんてクソゲー、二度とプレイするものか。


 さあ行こう。

 俺の楽園へ。

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