第22話

もういっちょ


わたしよく、わたしには何もないって言ってるんですけれどね

本当にわたし、何も持ってないんです。からっぽ。何もないんです


たとえば「わたしはこれができます!」っていうのがあれば、ちょっとは違ったのかも知れないけれど

何でも良いんです。本当に、何でも良かった

偏差値70とか80じゃなくて良かった。55とか、贅沢いうなら60くらい、人よりもほんのちょっと得意ですくらいで良かった


たとえば運動が得意とか

たとえば勉強ができるとか

たとえば顔が可愛いとか

たとえばひとに愛される性格をしているとか

たとえばコミュニケーション能力があるとか

たとえば料理ができるとか

たとえば手先が器用とか

たとえば絵がうまいとか


たとえば小説とか、そういうものをかけるとか


いまの仕事だって別に好きじゃないし、この先この道を極める気もさらさらない

かといって興味のあることもない。何かを楽しいと思うこともない(一瞬だけ楽しいと思うけれど、あとからね、むなしくなるんです。なりそこないが何してるんだろうって)。自分がこれから何かをやっていこうとか、考えても考えてもさっぱり思いつかない


ただ必死に人間のフリして、生きてるんです

人間のフリして生きていれば、なんとなく生きてる気分になれるから

いつか人間になれるかも知れないから

人間のフリをするのに必死になり過ぎて、最近はちょっと自分の形を見失いつつありますけれど


なんでもいいんです。なんでもよかった。ほんのちょっと、ちょこっとだけ、人よりもできるものがあれば良かった

誰かにね、褒めて欲しかったんです

すごいねって

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