ザ・ベストテン

ザ・ベストテン

　職場のあの人は東京に転勤になるらしい。噂では大阪で式を挙げて彼女と一緒に東京へ行くらしい。

　幼稚園の時のタカシくん、テレビの中のアイドルも合わせて10番目に好きになった人。11番目はまだいない。

　エレベーターで一緒になった折に

「栄転ですね、おめでとうございます」

と言ったら、

「どうなんやろね」

と、笑っていた。

　結婚するかどうかまでは聞き出せなかった。こうやって勇気を出せずに今まできたのだ。

　悶々とする日々だったが、機会はまた訪れた。

　定時に終わって社を出たら、あの人も帰るところだった。

「今日はお早いんですね」

と言ったら

「引っ越しと結婚式の準備で疲れてるねん」

と、また笑っていた。

　初めて結婚のことを聞いたという顔を作った。うまく出来たのかは疑問。

「ご結婚されるんですね、おめでとうございます」

と言ったら

「それより送別会してくれへん？」

と、居酒屋に誘われた。一人で飲むのは手持ちぶたさだと言われて。

「新婦さんに悪いです」

とは付け加えた。でも笑っていた。この人はいつも笑っているのだ。

ビールを飲みながら会社の話をした。私が新入社員だった頃のことを覚えていてくれたのが嬉しかった。中学生かと思ったらしい。

別れ際の駅で、酔いにまかせて勇気を振り絞る。

「私が好きだったの知ってましたか」

と言ったら、少し困った顔をして

「聞かんかったことにしとくわ」

と言って、また笑って、大きく手を振りながら改札に消えて行った。

言わなければよかったことのベスト１０にランクイン。

おしまい