闇神様
「私は闇神様に仕える使徒! 闇神様は年に一回精気を吸って生きておられる」
「や……やみ……がみ?」
僕はもう奴の言葉に突っ込みをする気力すら残っていなかった。そうか……そんなすごい存在と行動を共にしているから、周りと浮いていても全く意に介さなかったのか……。
自らを闇神の使徒と名乗るマロは、その後もとうとうと話を続ける。
「昔は集落の住人ごと精気を吸っていらしたのだが、それではやがて人が尽きてしまう……それで集落に残る残留精気を吸う事にしたのだ……。これならば人の数は減りはしない、ただお食事の回数が以前は50年に1回だったものが毎年になってしまったがな……」
「この……日食の正体が……それ……なの……か?」
日食が毎年確実に起きる理由はそう言う事だったのか。
しかしこんなとんでもないスケールの話だったとは――。僕は昔サキちゃんから聞いた神様に喧嘩を売って返り討ちにされる神話をぼんやりと思い出していた。
日食の正体を聞かれたマロはそこで意外な言葉を口にする。
「日食など始まりの合図にすぎんよ……今回は久し振りのご馳走なだけにお姿をお表しになりそうだ」
「お……俺達を食おうって……」
「当然だろう? 目の前に御馳走を出されて食べない者がどこにいる?」
ヤツがそう言った時、気が付くといつもマロの隣りにいるはずのサキちゃんがいなかった。僕は焦って彼女を探して辺りを見回した。
随分長い間キョロキョロと顔を振って見回して、やっと発見したのが今まさに本来の姿に変わろうとする彼女だった。
「サキちゃ……ん?」
「さあ、闇神様の降臨だ! 皆の者、ひれ伏すが良いぞ!」
ひれ伏すも何も……僕らはとっくにみんな立つ事も出来ずにその場に倒れているんですが……。その中で僕だけが何とか顔を上げてこの状況をしっかり目に焼き付けている状態。折角シノザキさんが選んで残ってもらった屈強な仲間達――そして追加調査を頼んだコンドーさん――みんな僕の我儘のせいで、こんな事で犠牲になってしまう。
ああ……こうなると分かっていたなら無理にでも僕ひとりが残る事で押し通すべきだった……。
闇神様の降臨と言っても空からそう言う存在が降りて来る訳ではなかった。闇神様は実はもっと身近な所にいたんだ。
そう、それは今まさに人の姿を捨てようとしている彼女……サキちゃんこそが闇神様そのものだったんだ! な、何だってー!
って言うかサキちゃんが怪しいって言うのは予想をつけていたけど――まさかその正体がよりにもよって闇神様だったなんて――。
今の彼女はその身体を闇が覆っている。時間が経つに連れてこの闇がまるで蛹のような形になり、やがて薄皮をはぐようにその闇が周りに散っていく。
そこに現れた闇神様の本来の姿が――ここまで来たもう説明も不要に思えるけど――そう、きゅうりだったんだ。
「さあ、闇神様! どうかこの下賤な者共をお召し上がりください!」
マロがこのきゅうりに対してそう言っているのを、僕は遠くなる意識の中で聞いていた。押さえつけられるような圧力を感じながら、僕らは誰ひとり何もする事が出来なかった。
闇神きゅうり様はおもむろに大きく口を開けて、すうっと何かを吸い始める。多分それが精気を吸うって行為なのだろう。僕らは為す術もなく、次々にそのきゅうりに精気を吸われていった。
ああ……力が抜けていく……。僕結構頑張ったよね? もう休んでもいいよね?
集落のみんな、残ってくれた仲間のみんな……本当にゴメン。こんな事になるなら無駄な抵抗なんてしなけりゃ良かったよ。まさかここまでレベルの違う話だったなんて……。
きっと何とか出来ると思っていたんだ――でも結局立ち向かう事すら出来なかった――こんな……ああ……。
そうしてまたしても僕の意識は段々と遠くなっていった。
結局、今回の夢では僕はきゅうりにまともに対峙する事すら出来なかった。無念だなぁ……。
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