魔界門到着!

「は、話を戻すけど、こっち側の門番って手強いの?」

「手強いなんてもんじゃない、バケモノだよ!」


 おいおい……そんな強いバケモノが門番をしていたらこっちには勝ち目ないだろ……。僕はこの話を聞いて思わずこぼしていた。


「そんな強いって……勝算はあるのかよ……」

「なぁに、俺とお前が本気を出せば何とかなるだろ!」

「まさか僕の力当てにしてる? 残念だけど僕は君を落胆させる自信があるよ」


 マロはむっちゃ前向きだった。何で会ってそんなに経ってない素性の分からない僕をそんなに信用出来るんだろう? 一応そんなに役に立たないアピールをしたんだけど、この言葉を聞いてもヤツの瞳の輝きは一切変わっていなかった。

 それからマロは突然自分の出自アピールを始めた。これってもしかして僕を安心させようとしているのかな?


「俺はこう見えてケルベロスの系譜だ……結構由緒ある血筋なんだぜ?」

「僕は……僕は自分がよく分からない」

「気にするな! 俺が付いててやるから!」


 こうして僕の孤独な旅に頼もしい相棒が加わった。正直本当に頼もしいかどうかはまだ疑問形だけど。

 それでも今までのひとりぼっちの旅なんかよりは断然賑やかになった。旅はやっぱりこうでなくちゃ。


 マロはさすが血筋を自慢するだけあって、とてもすごい魔物だった。力は強いし、火は吹くし、更には魔法まで使えた。僕も多少は鍛えようとヤツに教えてもらうんだけど、中々マスターするには至らなかった。

 何とか覚えられたのは自慢の爪を使った猫又スラッシュと、自身の素早さを上げる魔法くらいだ。


「大丈夫だって! 筋はいいんだから。門に辿り着くまでにもっと色んな技だって身に付けられるよ」

「ありがとう。期待に添えられるように頑張るよ」


 マロに背中を押されて僕は出来るだけ自分を鍛える事にした。ここは喧嘩には事欠かないから実践はいくらでも経験出来る。

 この経験を生かして鍛錬の日々は始まった。それは常に生傷の絶えない茨の道だ。何度も経験を繰り返していく内に地力がついて、いつしかそこらの喧嘩じゃ負けないくらいにはなっていった。


「だから言ったろ? 筋はいいって」

「これもみんなマロのおかげだよ。君がバックに居ると思うから本気で戦えたんだ」

「おお、お世辞まで上手になっちゃって」


 勿論これはお世辞と言う訳じゃない。マロもそれが分かっていてからかっているんだと思う。

 旅を続けながら僕らの友情も深まっていった。喧嘩に勝つごとに僕らのコンビは段々と有名になっていく。強くなるに連れて、もしかしたらこれ行けるんじゃね? って思えるほどに自分の実力に自信がついていった。


 やがて僕らは魔界門に一番近い街まで辿り着いた。早速明日は魔界門に挑戦だ。いよいよ門に挑戦するとなったその前の晩は当然のように眠れなかった。宿の寝室で僕らは明日以降の事を話し合う。語る話は尽きなかった。


「とうとうここまで来たな」

「魔物が天上界に行ったらどうなるんだろう」

「やっぱ天使達と戦うハメになるんじゃないか」


 魔物と天使は水と油……やっぱり出会ってしまったら戦いになる覚悟はしなくちゃいけないか……。

 でも僕らは魔界が嫌で天上界に行く訳だし、何とか天使達とうまく折り合いは付けられないものだろうか? そこで僕は戦う以外の方法がないのかマロに聞いてみた。


「でも戦いに行く訳じゃないんだろ?」

「勿論だよ。噂では魔物が改心したって認められると、天使にしてくれるらしいんだ」

「魔物が天使に? そんな事が?」

「有り得ない話じゃないぞ。そもそも多くの魔物は元は天使だったんだから」

「えっ? マジ?」


 これはすごい話を聞いてしまった。それじゃますます門を抜けるしかないって気になる。大体僕はこの魔界が嫌だし、魔物のこの体自体が嫌だった。天使になれるんなら喜んで天使になるよ。

 しかし魔物が天使になるってどう言う理屈なんだろう? 僕にはそこがまだよく分からない。すると、そこに疑問を持っている事を察したマロが僕に簡単に説明してくれた。


「お前魔界の歴史も知らないのかよ……いいか? 魔界は神に反逆した当時の大天使長が、多くの天使の仲間と共に堕とされた世界なんだよ」

「おお……何だかどこかで聞いた事があるような……」


 確か聖書――だっけ? 似たような話をサキちゃんが話してくれた事がある。サキちゃんはクリスチャンじゃないけど、この手の話が結構好きなんだ。そう言えば他にも色んな話を聞かされたっけなぁ……。何だか懐かしいや。

 僕がそんな事を思い出してノスタルジーに浸っていると、ヤツはそのまま話を続ける。


「な、希望が湧いてきただろ?」

「俄然やる気が出て来たよ、有難う」

「良し! 明日は頑張ろうな」


 その後も色々と話は続いて、気がついたら夜が明けていた。魔界の朝は薄暗くて夜との明るさの差は殆どない。それでも何となく少し明るくなった程度の明るさの違いはある。とは言え、寝坊助ならきっと寝過ごすくらいの微妙さだ。


 僕らはずっと徹夜で話をしていたから、この期に及んで遅刻すると言う事はなかった。ただ、寝ていない分、体力面に少し心配なところは出て来てしまったんだけど。

 でも話し合っていてもいなくてもきっと気が張って眠れなかっただろうから、そこは気にしていても仕方がない。


「それじゃあ、行くか!」

「行こう! そして門の向こう側へ!」


 僕らは意気揚揚と魔界門のある通称境界山へと向かった。この山だって結構な高さがある。

 けれどここを乗り越えたら夢が叶うと思えば、それはさほど大きな障害にはならなかった。足を進めるこの一歩一歩がそのまま夢に近付くようなそんな気がしていた。


 僕らは犬と猫だから四本足で本気で走ったらかなりのスピードで登れる。人間の足だとかなり時間がかかるような距離だってあっと言う間だ。

 ずっと遠くから目指していた小さな光がここからだとかなりまぶしく見えていた。もうすぐゴールに辿り着くんだって思うと、興奮せずにはいられなかった。

 その先に一番の障害がある事も忘れて。


「ちょい待ち!」


 もうすぐ頂上が見えそうだと言う所まで来て、突然マロが僕を静止する。勢いを止められた僕はちょっとイラッとしてしまった。

 一体何で急に止めたのか、すぐにはその理由が理解が出来ない。


「よく見ろ、あそこだ」

「あ、アレって……」


 マロの指し示した方角に何か蠢く影が見えた。そう、あれは僕らが夢を叶えるのに一番の障害となる門番だ。天上界側の門番は新人の天使が担当していた訳だけど、魔界側のそいつかはかなりのベテランが担当している。何で天上界側と魔界側でそこまで違うのか分からないけど、多分守る側と攻める側では色々と事情が違うんだろう。

 そもそも僕が前にいた夢の天上界と同じ世界観とも限らない訳だし……。


「どうする?」

「ここは慎重に行こう……奴がまだ気付いていないなら予定通り連携でけりをつける」

「作戦参謀はマロ、君だ……君の言葉に従うよ」


 僕らは慎重に門番に近付いた。息を殺して……気配を消して……そう、これは猫の得意分野。だから気付かれにくい僕の方が先頭にいる。これも事前の打ち合わせ通りだった。

 門番はまだ気付いていない。タイミングを見計らってすぐに合図を出した。


「……行け!」


 マロから作戦決行の指示が出た。僕はスピードアップの魔法を自分にかけて、門番に襲いかかる! ここでまず門番に不意打ちをかけて、先手を取れればそこから先の戦闘もかなり楽になる――はずだ。


「ニャァァ!」


 門番に襲いかかろうとしたその時、僕はその門番の正体を確認した。予想はしていたけど……。その門番は――お約束通り、きゅうりだった。しかも全長10m……こいつは……前の夢で僕を食った奴だ……。


「んんん~ッ?」

「しまった!」


 心の動揺が攻撃の手を緩めてしまって、僕は折角の第一撃を外してしまう。何と言う失態! 攻撃を避けた巨大きゅうり魔物はそのまま僕に向かって攻撃を仕掛けてきた!

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