第2話 居場所
森は男に尋ねた。「男よ。お前はずいぶん長いことこの森に住み着いている。私のような薄暗くて、湿度も高い森に長いこと住み着く人間は珍し。人間は太陽が好きなんだろう。爽やかな吹き抜けるような風が好きなんだろう。」
男は、そっぽを向くように寝ていた体の向きをかえた。男は、森の外にいないことを非難されたと思い不機嫌になった。しばらく黙って横たわっていた。沈黙に耐えれなくなりとうとう「普通一般の人間の話をされては困る」と、男はぼそっとつぶやいた。森は男に聞き返した。
「普通一般の人間?」
男は、非難の追求を止めない森に苛立ち無視をしようと心に決めたが、自分の胸にあった歪み腐った心が少し漏れると堰を切ったように語り出した。
「自分は、普通一般の人間とは考え方が違う。太陽の光を浴びても気持ちいいと思ったことはない。むしろ、日の光は皮膚に悪い。体が黒くなり醜くなる。それに異国では太陽の下を歩かないという。森の周りの人間たちがおかしいのだ。爽やかな風とも言うが、誰が爽やか風を良いものだと決めたんだ。あいつらは疑問にも思わないのだ。爽やかな風=良いものだと。」
男は、苛立っていた。一方、森は悲しかった。男は、苛立ちから会話を切って、ふて寝を始めた。森に寂しく冷たい風がそっと流れた。男は、身を少し震えながら「ここは寒い」と静かにつぶやいた。
森にしばらく寂しい風が吹いた。「私を選んだのではないのだな」と森も静かにつぶやいた。
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