クズ人間の森
対馬守
第1話 責任
森は男に話しかけた。「男よ。責任という言葉を知っているか」と。男は若干不愉快な気持ちになったが、自身の学識の高さを見せつける機会を得たとすぐに気が付き喜んで答えた。
「それは難しい質問だ」
男は、問題が常人では答えられないものであるかのように演出したかった。少し悩んで見せる。男は続ける。
「一般的な意味ではこうだろう。人が引き受けてなすべき任務ということだろう。荘子にもある言葉だ。」
男は聞かれてもいないことを答えた。森は続けて男に聞いた。「男よ。責任という言葉を知っているか」と。
男は今答えたばかりのことを聞かれて若干腹が立った。それと同時に、森ごときは理解できなかったのだと、内心嬉しくなった。高尚な答えをやすやすと理解されてはいけないのだ。いつの世も先を行き人間は理解されないものだ。
「森よ。どうやらお前は理解できなかったようだからもう一度答えてやろう。人や物を抱え込む義務さ。だから、決断と勇気が必要なものさ何が起きようとも」と、男はどこかで読んだ内容をうる覚えで答えた。高尚な男である自分が読んだ本なのだから、その本は高尚なのである。だから、それを引用したことが男にとって何より大事であった。
森は、また男に尋ねた。「男よ。責任という言葉を知っているか」
男はさすがに三度目となると相手をするのがバカらしくなり、会話を終えて去っていった。男は一度も責任という言葉を知っているとは答えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます