SCHOOL SURVIVAL@3800(スクールサバイバルさんぜんはっぴゃく)

神山イナ

プロロウグ

  時は、西暦3800年――。



 人類の全盛期といわれた21世紀から現在に至るまで、実にさまざまな出来事が起こった。

 それらすべてを簡潔にまとめるとするならば、『地球はまだ滅んでいない』に尽きる。

 しかし、古くから懸念されていた数多くの環境問題によってその水位は大きく上昇し、その大陸のほとんどは海へと沈んでしまった。

 今現在、唯一地球に浮かんでいるのは、『日本』という小さな島国だけ。

 それもまた、首都『東京』以外は既に大海原の中である。


 西暦3000年代初頭。

 次々と滅亡していく海外諸国を目の当たりにした日本政府は、「我が国もそろそろやばいんじゃないのか?」と言いながらようやく重い腰を上げ、前々からなんとなく検討していた『火星移民計画』について本格的にその腰を入れ始めた。

 ……が、肝心の宇宙開発研究がなかなか思うように進まず、人口を激しく減少させながらもかろうじて現在に至っている。

 その全人口、わずか100名。

 中でも、二十歳未満の若者の数は、かの有名な少子高齢化現象の名残を未だに引きずり、たったの7名にまで絞られていた。

 つまり現在では、日本の未来を担う若者が圧倒的に不足している。


 そう。

 西暦3800年の人類は、まさに滅亡寸前なのだ。

 愛しき地球はもはや水風船状態――早々に他の惑星へと移り住まなければ、その歴史は終わりを迎えるだろう。


 ……にもかかわらず、本来この事実と向き合うべく宇宙へと旅立ったはずの『全日本宇宙開発研究チーム』は、そのプレッシャーの重さに耐えきれず、宇宙船内でコーヒーを片手にネットゲームに没頭しているというまさかの現状である。

 つまり、やる気がない。

 いや、誰もがさじを投げたくなるほどに、『人類の活動拠点を他の惑星へ移す』という行為は、いざやろうとしてみれば、あまりにも困難を極めていた。

 しかし、それでも、誰かが取り組まなければならない――。


 一刻も早く『火星移民計画』を進めたい日本政府は、前述の者たちに取って代わる優秀な宇宙飛行士を育成するため、パンツ一丁で日夜議論に明け暮れた。

 結果、『滅亡寸前の我が国の教育において、もはや国語や算数などを学ぶ時間はない』という極端な方針のもと、教育を受ける権利を有するすべての若者たちに対し、とある挑戦状を叩きつけた。

 地球に残された唯一の小学校に、あの悪夢のような義務教育制度が導入されたのである。






YUTERRAゆてら教育』


 日本政府によって打ち出された人類の最終進化系教育体制ファイナル・エデュケーション、『YUTERRA教育』である。

 小学校低学年の段階から宇宙工学知識の詰め込みをおこなうこの教育制度は、全国の教育MAMAたちのあいだで爆発的な波紋をもたらしたのち、当然のように多くの社会問題へと発展した。


 その過酷な授業内容により、小学校生活一年目にして登校拒否ドロップ・アウトを渇望する生徒たちが続発したのである。

 それもそのはず、宇宙飛行士の訓練内容を国語や算数そっちのけで強要されるのだから、ついていける生徒など皆無に等しい。

 ゆえに、全国の教育MAMAたちも、愛する我が子の「学校に行きたくない」という健気な要求を受け入れざるを得ず、結果的に若年層の99%以上が自宅警備員の職に就くという大規模な社会現象クーデターが巻き起こった。

 これにより、空き巣などの犯罪被害は大幅に減少――各家庭の平和は無事に守られた――が、窓の外では相変わらず地球環境問題が横行し、人類滅亡の日は近い。


 その窮地を脱するべく、一人の少年が立ち上がる。


 彼も、小学校入学三日目にして休学を余儀なくされたが、誰に吹きまれるでもなく「俺は未来を救うんだ」という強い使命感のもと、親に内緒で受講した裏社会の通信教育講座によって国語・算数・理科・社会――禁じられた四つの基礎学力を習得し、この春、ついに復学を果たした。


 総括しよう。

 退廃した人類を次の段階ネクスト・ステージへと移行させるためには、カリスマ的な知性、体力、そして勇気を持った先導者リーダーの存在が必要不可欠である。

 それらの要素を兼ねそろえた最有力候補というのが、他でもない。

 彼である。

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