続・おめでとう、俺は美少女に進化した。

和久井 透夏

第1章 義妹は迷探偵

第1話 お兄ちゃんが許しません!

「はい、すばるさん、あーん」

 テーブルから身を乗り出して優奈がパフェをすくったスプーンを俺の前に差し出す。

 すると優奈の体勢が俺に向かって前屈みになり、襟ぐりがめくれて無防備な胸元が露になる。


「あ、あーん……」

 俺はなるべく胸元に目が行かないように自然体を装いながら優奈の差し出すスプーンを頬張る。

 ニコニコした優奈と目が合って、なんだか恥ずかしい。



 とある日曜日、朝倉すばるの格好をした俺と優奈は、一緒に出かけていた。


 来月開催される同人イベントで一緒にとある兄弟の合わせコスをする事になったまでは良かったが、市販のコスプレ衣装は、付属品の肩鎧かたよろいの出来がどうにも悪かったので、そこだけ自作する事になったからだ。


 俺は過去に似たような小道具を何度か製作した事があったので、その程度なら一日で製作できるだろうと考えた。

 材料費だけもらえれば優奈の分もついでに作ってしまおうかと俺が言えば、せっかくなので自分も作れるようになりたいと優奈は言い出した。


 そんな訳で、俺達は今度一緒にすばるの家で肩鎧を製作する事になり、今日はその材料の買出しに来ていた。

 基本的に俺は自作のコスプレ用アイテムは大体100均で材料を揃える。


 材料費をできるだけ安く上げるためだ。

 安い材料でも手間と工夫を凝らせば、それなりの完成度の物が作れる。


 もちろん100均で手に入らない物もあるので、そういう時は安い手芸店や量販店等も回る。

 こうやって、どうやって作ろうか考えながら色んな店を回るというのはとても楽しい。


 買い物の休憩で俺達が入ったこのカフェは、こだわりのフルーツパフェが売りらしく、せっかくだからそれを頼もうという事になった。


 苺とマンゴー、どちらにしようか迷っていた所、優奈に、

「もし良かったら両方頼んで、二人でそれを半分こにしませんか?」

 と言われた。


 男同士だとそんな事はしないので少し驚いたが、女同士だとよく頼んだ食べ物をシェアしたりする事もあるらしいという、どっかのトーク番組かなんかで聞いた事があるのをふと俺は思い出した。


 女同士でそれぞれ頼んだものを一口ずつ相手にあげるということがままあるのなら、女装している今、下手にこの申し出を断るのも変かもしれないと俺は考えた。


 そして苺とマンゴー、それぞれのパフェが到着し、俺がマンゴー、優奈が苺のパフェを少し食べた所で、冒頭に戻る。

 てっきりそれぞれ半分ずつ食べたら器ごと交換するものだと思ったのだが、優奈は自分の使ったスプーンでそのままパフェを掬って俺に差し出してくる。


 コレは間接キスというものでは、とも思ったが、きっと女同士ならそれが普通なのかもしれない。

 俺としては嫌じゃないどころか、むしろ嬉しいというか、これを男の時にやられたら確実に勘違いをしてしまう自信がある。


 しかし、今の俺は朝倉すばるだ。

 優奈の義兄である鈴村将晴ではない。


 そう言えば中学、高校時代はよく教室や廊下で仲の良い女子同士がくっついたりしてじゃれあっていた。

 優奈も朝倉すばるを恋愛的な意味で好きなようだが、多分これは仲の良い女子同士のじゃれあいの範疇はんちゅうだろう。



 だめだ、勘違いするな、意識するな……!


「今度はすばるさんの一口下さい」

 必死に俺が自分に言い聞かせているというのに、更に優奈は机から身を乗り出したまま上目遣いで言ってくる。


「……いちいち席から立ち上がるの大変だし、隣に来たら?」

 流石にこれ以上は目の毒だと思った俺は、シートになっている俺の座っている席の隣を軽く叩いて優奈を呼んだ。


 これならもうさっきみたいな事にはならないだろう。

 そう思ったのだが、俺の隣に座った優奈は、今度はえらく密着してくる。


「あーん」

 ニコニコと雛鳥が親に餌をねだるように口を開ける。

 なんだか妙にエロい。


 いや、きっとそれは俺の心がよこしまだからだ。

 きっと仲の良い女の子同士ではコレは普通なのだろう。


 自分にそう言い聞かせ、俺は頭の中の雑念を振り払った。

 結局俺達はそれからしばらくお互いにくっつきながら、雑談も交えつつパフェを食べさせあった。


 ものすごく恥ずかしかったのだが、ここで照れてはダメだと思い、あくまで笑顔で自然体を貫き通した。

 ただ、内心パニックで周りの視線にまで気を配れなかったのは、良かったのか悪かったのか……いや、きっと少しでも周りを気にしたら完全に俺は羞恥心で死ねたので良かったのだろう。




 俺には家族に絶対言えない趣味がある。


 女装コスプレだ。


 現在、義理の弟優司と義理の妹の優奈は、女装している姿の俺に恋愛的な意味で好意を寄せている。


 二人は俺の女装した姿、コスプレイヤー+プレアデス+こと朝倉すばるの正体が義理の兄である俺だとは全く気付いていない。


 そして、いつのまにか優司と優奈の中で女装した俺と二人の義兄である俺は友人であることになり、俺は自分の女装した姿、『朝倉すばる』への優司と優奈の恋を応援する事になってしまった。


 どうしてこうなったのか訳がわからない……。


 『朝倉すばる』の正体がバレたら、両親とも双方に連れ子がいるにもかかわらず、奇跡的に仲のいい我が家の空気が凍りつく。


 そればかりか、今年度受験を控えた多感な年頃の妹と弟が、非行に走るなどして、大きく道を踏み外してしまうかもしれない。


 しかし、随分と『朝倉すばる』に惚れこんでいる様子の双子は、油断するとグイグイ距離を詰めようとしてくる。


 一歩間違えば家庭崩壊もありえる訳で、俺は俺の家族や自分自身のためにもこの秘密を絶対守り通さなければならない。




 正直、斜めがけの鞄の紐が胸に食い込んでいたり、結構ゆるゆるのカットソーの襟ぐりからチラチラと下着が見えたり、ミニスカートでやたらはしゃぐ優奈にドキドキしなかったかといえば嘘になる。


 しかし、それ以上に、義理ではあるが、妹がそんな格好で出歩いているとなると、身内としては心配になる。


 とりあえず鞄に関しては、待ち合わせ場所で合流した時に斜めがけにして俗に言うπパイスラッシュ状態にしていたバッグの紐を調節させて肩掛けにさせた。


 そして、上着にロングコートを羽織っていたので、室内以外ではボタンを全て上まで付けさせておいた。


 途中で暑いとか窮屈とか言っていたが知ったことではない。

 

 お兄ちゃんが許しません!

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