第16話 プール
で、宇宙人だと日本ばかりを襲うなんて……。
「バカだな。なんで日本だけを狙うんだよ」
だよな。ヒナタ相変わらずツッコミが鋭いよ。でも、それじゃあ……。
「この世界であいつらと戦ってるのはここにいる、たったの……」
自分を含めて数に入れていいのか考えてしまった。言葉に詰まった俺の後を繋いで
「そう、ここにいる五人よ」
俺が言い淀んでいた先をさらっと翔子が付け加える。
ここにいるたったこれだけの人数で、『樹』が死ぬ前ですら、十数人だったんだろ? それで世界を守ってたって……本当にヒーローじゃないか。
でも……世界中が標的なら……。
「そんなんじゃあ、四六時中攻撃されてるのか?」
昼も夜も関係ない世界中なら。
「それが奴らにもなにか法則があるみたいでな。一定の時間は攻撃がなくなる。そして、攻撃がはじまると数都市狙って来る。で、また……」
「間があく。その時間に俺を家に帰してるのか?」
博士の言葉に繋いで俺は翔子達を見る。大丈夫なのか? こいつらちゃんと休めてるのか?
「ああ。まあ、そうだよ。間の周期は最初からほとんど変わらない」
「だいたい三十六時間あくのよ。だからちゃんと休めてるよ」
博士の補足をレイナがする。俺が翔子達が休憩できてるのか心配しているのをレイナにちゃんと見抜かれていた。レイナって雰囲気と実際の性格は違っているのかもしれない。
「じゃあ、終わりはわかるのか? 俺、昨日勝手に帰ったけど」
敵が終了の合図をわざわざ送ってくるわけがない。相手が何者なのかその正体すらわかってないのに。
「それがね。今は……その……昨日は昨日じゃないの」
翔子は言い出しにくそうに言った。え? 昨日じゃない? いや、だって三十六時間だから俺が帰ったのは昨日じゃないことぐらいは俺だって気づいてる……って! そっちか!? 俺の回復の為に……。
「俺を休ませる為に一旦帰しただけで、これはまだ昨日の続きなんだな?」
「そうなんだ。樹君がすっかり疲れてしまったみたいだしね」
疲れたのはおまえのせいだ! 博士! 無理矢理注射して不死身にしたり、腕を切ったりいろいろするからだよ!
「奴らの攻撃が三時間以上空くことはないから、それで判断するのよ」
翔子が博士が言ってない大事な情報を優しく教えてくれる。こっちの翔子はなんだか俺に優しい。あっちの翔子もこっちと同じ幼馴染だ。いなくなった『樹』を思ったら自然と俺に優しくなるのかもしれない。それともパラレルワールドというのは違った人格を生み出しているのかもしれない。って、『樹』がすでに俺とは大きく違ってるしな。
「じゃあ、今から三時間はここで待つってことだよね?」
「どうせ怪我回復しないとここを出れないじゃない!」
ヒナタに頭をはたかれる。ヒナタ! 怪我してることわかってて怪我人をはたくなよ!
「攻撃はどれくらいの回数なんだ?」
背中の傷は深そうだ。出来れば、このままで終わってもらいたい。
「それが回数も敵の人数もまちまちなの。攻撃回数は三回から十回ってところなんだけど……」
「一回二十一回も行ったことあるよね!」
翔子はオブラートに包んだ話にしたかったのにレイナが台無しにしてくれたようだ。昨日と今日でまだ四回か。二十一回……考えられない。考えたくもない……。
「まあ、三、四回ってこともあるよ。ね、翔子?」
自分で話大きくしといて翔子にふるレイナ。
「う、うん。さっきもその前も敵の数多かったし、もう終わってもおかしくないよ。うん、きっと」
確かに翔子の言うとおり昨日の最後と今さっきの襲撃の数は多かった。よかった、あれで多いという俺の感覚とこちらの翔子達の感覚とが同じで。息切れはなくなったものの、疲労はまだまだ残っている。不死身でも疲労は関係ないのかよ! 不便だ。背中の傷はいったいどうなってるのか? 鈍い感覚ではよくわからない。まあ、よくわかる感覚になったらなったで酷い痛みで意識がなくなって戦闘できないんだけど。そうなったら、それこそ息の根を止められるんだろうけど。
「とにかく樹君は着替えてもらおうか。あとはレイナ君も少し怪我しているね。手当をしよう」
え? そう言われてレイナを見る。いつもと変わらず元気なのと戦闘してたので青色の液体がついていたので気づかなかったが、よくみると腕に傷ができていた。
「大丈夫なのか?」
「うん。博士の機械でね!」
博士の機械? なんだまだ不思議な道具があるのか?
「とにかく樹は着替えて! 次がいつ来るかわかんないんだから」
「えー! 怪我酷いんじゃないのか?」
「痛くないんだろ?」
「マジかよー!」
ヒナタは相変わらず俺に厳しいよ。
新しいスーツはいったい何着あるんだ? あの戦闘の間に直したにしては綺麗すぎる。ヒナタに渡されたスーツはきっと新しい。まあ、二十一回も戦った日があるんだ。用意してるのが二着なわけないよな。わざわざ俺を不死身にしたんだから、やられるのは計算のうちだろう。
ブツブツいいながらも小部屋に入り着替える。鏡もないから傷の具合も見れない。まあ、見れたら着替えなんてできないかもな。ヒナタの言ったとおりいつ奴らが来るかわからないんだ。早く着替えよう。
部屋を出るとまた悲しげな博士に背中がバッサリと切られてるスーツを渡す。
「ああ!」
今度は直せないのか悲痛な声だな。ストックされてるスーツがすべて使い終わる前に俺の腕も上がっていればいいんだけど。その前にストックはいくつあるんだ? こんなに激しい攻撃が続くならもたないんじゃないか?
「なあ、このスーツってあといくつあるんだ?」
「ほう、自信がないんだね。樹君」
「はじめからない。だいたい勝手にそっちが……」
って俺の言葉も聞かずに博士は奥の扉に向かって行く。ついて来いってか?
扉を開けてこちらを向く。
「見てみたまえ! 私の研究の成果だよ!」
なんだかすごく見たくないがしかたない。そう言えばまだレイナもそこから戻ってないし……何をしてるんだ? 治療って……
博士が開けた扉の中に入る。
そこは……洋館の一部屋などではなかった。完全な秘密基地? いや研究所? なんだかわからない機械があちこちにあり、窓などどこにもない。まあ、あってもコンクリートの壁……コンクリートでもないのかもしれないな……コンクリートの壁をあの銀色の腕で叩き切ったさっきのあの敵を思い浮かべた。コンクリートよりも硬い素材でここは守られてるのかもな。とにかく、この部屋はあたり一面機械だらけだった。
あ、あった。この部屋では場違いなハンガーラックがあり、そこには何十着ものこのスーツが用意されていた。おいおい。博士、悲痛な顔するなよ。まだこんなにあるのに。まあ、でも戦闘の度に毎回破損されたら修復が間に合わないぐらいの攻撃頻度なんだろう。さっきの話だと。
そして、小さなプールのような物を見つけた。同じく場違いなそれに近づくと!
「お、おい! これ!?」
「触らないでくれよ! 樹君。まだ治療中なんだから」
「治療中って……レイナ……死んでないのか? 息が……」
そうそのプールにはレイナが沈んでいた。沈んでいるのに息を止めてる様子もない。服は真っ白なワンピースに着替えて眠っているように見える。プールのそばにドアがあるからそこの中で着替えたんだろう。
「息は首の後ろにつないだ管から直接とっている。安静にするのが一番だ。それが治療の近道だからね」
「安静って……」
安静にしすぎだろ。レイナはプールに沈められ目を閉じてる。頬の若干の赤みで生きていると思える程度だ。この光景は死んで沈んでるようにしか見えない。
それほど……早くに治さなければ間に合わないんだろう。世界中をたった三人で守ってきたんだ。そりゃ三人とも強いわけだな。
そして、俺を不死身にしないといけないわけだ。俺じゃあこれでは間に合わない。毎回死んでるもんな。いったい『樹』ってどんだけ強かったんだよ。
と、後ろで扉が慌てて開けられたような音がする。飛んできて扉のドアノブをひっ掴む音がした。
「樹! 来たよ! レイナは……あっと、今回は私達だけで」
中に飛び込んで来たヒナタは俺のそばにあるプールを見てそう言った。今回はレイナは間に合わなかった。
「ああ」
俺は探知機を取り出した。ん? 何も写っていない。
「ああ、それはこの部屋では使えないんだよ」
へ? そうなのか。そうだな、こんだけいろんな機械があればそうなのか。
俺は足早に博士の研修室を出る。そこにはもうヒナタも翔子もいない。もう一度手に持っていた探知機を見る。うわ、すごい数だ。すぐに赤いボタンを押す。
うえー! まだ背中治ってない!!
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