第10話 制服
そろそろ胸の傷も治って来たようだ。翔子達の視線が変わる。あれだけグロイ場面で戦ってても、俺の胸の傷は直視できなかったみたいだ。まあ、草介博士は平気だけどな。信じられないよ、あの神経は。
俺でも、いや自分の体だからこそか、傷口が回復する様を見れなかったしな。
「なあ、樹! 本当に違う樹なんだな! 樹ならあれくらい簡単なのに」
レイナはズカズカ物を言う奴らしい、まあそういわれても傷つきはしない。俺はヒーローなんかじゃない、ただの高校生だ。だけど、ズバリとそんな風に言われるとちょっとは応えるよ。しかも博士の作った腕輪もつけてるのに。
と、そこへバタバタと博士が帰ってきた。良かった。レイナになんと返事をしていいものか困ってたんだ。返事をしようがない。「そうだろう?」も、「そうじゃない!」も言えない。だいたい俺はこの世界の俺を知らないのに!
「いやー! あって良かったよ。着替えるで思い出したんだよ」
博士を見ると制服らしき物を持っている。冬のブレザーまであるようだ。
「それって……」
「樹君が最後にここで着替えて行った時の制服だよ。同じ学校かな?」
博士はブレザーを広げて見せてくれる。博士の手の中は俺の通っている制服があった。
「ああ」
「パラレルワールドだからね、学校も一緒とは限らないんだよ」
「え? ヒナタは学校で待ってたんじゃ?」
学校も知らないのにどうやったんだ?
「朝、家からつけて学校まで行って下校を狙ったんだ」
ヒナタ、俺を獲物みたいに言うなよ。もっと別な言い方ないのか?
「じゃあ、これ、はい。そっちの部屋で着替えてくれ」
博士は俺に制服の上下を渡して着替える場所を指差した。さっき博士が出てきた奥のドアでもなく、翔子達がいた部屋でもなくもう一つの部屋のドアだった。
俺は着替えに入る。そこにもカーテンがかけられていた。四畳半くらいの小部屋だった。小さなテーブルが置いてあるだけの部屋。着替え専用って感じだ。おいおい。博士! 着替えの必要性、最初からわかってたんじゃないのか?
そういえば三人の女子は皆同じ服を着ていた。制服ではもちろんない。スカートではなく短パンに体操服に近い感じのTシャツというかそんな服装だ。ヒーローにこだわるわりにそんな要素は全くない。動きに配慮しまくりな戦闘服だな。
シャツを脱いで傷口を見てみる。すっかり傷が治って擦り傷程度になってる。着替えても血はつかないだろう。ズボンも血まみれだ。ズボンがまだ冬用ではなかった。ブレザーもあったから心配してたんだが助かった。ズボンが冬用に変わっていたらいくらなんでも母親に怪しまれる。
それにしても、全くサイズが同じだった。パラレルワールドか……運命は同じではないのか? そんなことを考えると頭が痛くなりそうだし早く帰らないと。草介という幼馴染は存在しない。他の言い訳を考えないと。
結局、着替え終わっても母親に言えるような言い訳なんて見つからなかった。
ドアを開けて博士にズタボロの制服を渡す。
「これ処分してくれよ。そんなの持ってたら怪しまれる」
処分……あれ? そう言えば庭に埋めたって言ったよな? 俺の腕……あっちの世界の庭に埋めたのか? こっちは地下なんだし…… なにかの拍子に出てきたら大騒ぎになるな。
「わかったよ。また、庭で焼いておくよ」
俺の腕が見つかったら真っ先に捕まるなこいつ。間違いなく。
「じゃあ、帰るわ」
明日も来るって言ってしまった。仕方ない。三人の女子の戦闘を見ては放っておけない。
「またね!樹!」
「樹。またな」
ヒナタはなぜ上からなんだ。
「チャオ」
ご機嫌だな。レイナ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます