塞がれた窓


 ある日唐突に妻が窓ガラスにガムテープを貼りだした。理由を聞いても要領を得ず、毎日一すじずつ、上から順にぴっちりと貼っていく。

 一つの窓が塞がれば次の窓、大きな窓も小さな窓も、風呂場やトイレの窓まで次々と貼っていく。

 日を追うごとに家の中が暗くなり、やがてほとんどの窓が塞がった。

 妻の精神が病んでいることにとっくに気付いていたが、何を言ってもやめないので、気が済むまでとそのままにしておいた。

 寝室の窓の最後の一すじを貼り終えた後、妻はベッドの上で死んでいた。自殺ではなく病死だった。

 愛人がすぐ家に転がり込んできた。まだ早すぎると思ったが、病んだ妻の言動に悩まされていた日々を癒してくれたのは彼女だし、やっと日陰の身から脱せると喜んでいる彼女を無碍にすることはできなかった。

 ただ、非現実的だとは思いつつも、彼女が妻を呪い殺したのではと想像した。

 まさかまさか。この世にそんなことあり得ない。

 悋気の強かった妻と図らずも離れられ、これから来る幸福な未来に思いを馳せて愛の巣となろう寝室の窓のテープを剥がす。

 窓の向こうで妻が覗いていた。

 どの窓のテープをめくっても妻がいるので剥がすことができない。

 明るいが妻の覗く家で愛人と新しい生活を営むか、暗いままだが妻が見えない家で生きていくか悩みに悩んだ。

 いっこうにテープをはがさない私と窓を塞いだ異様な家に耐えられなかったのか、しばらくして愛人は出て行った。

 私は彼女をあきらめた。

 許しを期待してテープをはがしてみるも妻は相変わらずそこにいた――

 あれからも妻の怒りは解けず、私まだ暗い家に一人でいる。

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