すずめばち


 大きな羽音がした。私はそれを蜂だと察知し、素早く頭を下げた。

 案の定、雀蜂が頭上を飛んで行った。

 こんな時期に山登りなどしなければよかった。うっかり蜂の巣に近づいたらえらい目に合う。

 頭を上げた矢先、またも雀蜂が通り過ぎ、私はしゃがみ込んだ。やはり巣が近いのかもしれない。

 蜂は私に見向きもせず一方向へまっしぐらに飛んでいく。丸めたものを持っていたので巣に餌を運んでいるのだとわかった。

 雀蜂はテリトリーに入った人間を威嚇する。巣のある方向に歩を進めるわけにはいかない。残念だが来た道を戻ることにした。

 何匹もの餌を持った蜂が巣に向かって飛んでいく。

 どれだけの蜂がいるんだろう。よく働くもんだ。帰ったら習性でも調べてみるか。

 そう思い歩を進めていた私だったが、雀蜂が餌を持ってくる方向が無性に気になった。

 いったい何を運んでいるのか。

 少しぐらい道から外れても迷うことはないだろうと、蜂の飛んでくるほうに見当をつけ、繁る木々の枝をかき分けた。

 臭覚がおぞましい腐臭をとらえる。

「あっ」

 雀蜂が飛びまわる草むらに男の腐乱死体が横たわっていた。

 無数の雀蜂がその上で一生懸命肉団子を作っていた。

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