逢いたいと呟くだけの呼吸器官

XYI

第1話 祖母と僕のでぃすこおど


 僕は年寄りが苦手だ。


 フィクションで描かれる老人の姿は、なぜ、あんなに大らかで、優しくって、明るく、そして穏健なのだろうか。

 あんなのは、若輩者が年配者に対して思い描く幻想でしかないと思う。


 現実は、幼くて、コンプレックスの塊で、自己中で、歪んでいる。

 そとっつらは気持ち悪いほどに良くて、見栄っ張りで、常に誰かを妬んでいて、そして何よりも死を恐れている。


 少なくとも、僕の祖母はそんな人間だった。

 高校入学とともに、僕は両親のもとを離れ、祖母の家で暮らしていた。


 祖母と僕は、二人暮らしだった。

 祖母は僕に、食事を与えなかった。

 祖母は僕に、台所を使うことを禁じた。

 祖母は僕に、電気を使うことを禁じた。

 祖母は僕を、人殺しだと罵った。


 はじめのころに一度だけ、

「ご飯はいらないから仲良くしてほしい」と伝えに、祖母の部屋を訪れたことがある。


「お前の話は聞きたくない。お前と話すと動悸が激しくなる。お前は私を殺す気か。

お前は私が死ねばいいと思っているんだろう。あっちにいけ。ここに来るな」


 そのときだけは、哀しくてどうしようもなかった。

 だけど、それからは何も思わなくなった。


 海外に住む両親には、そのことを知られたくなくて、無意識に隠していた。

 けれど隠すまでもなく、彼らは僕の学校環境にしか興味がないようだった。


 両親は祖母のことを信じ切っていた。

 むしろ、両親は祖母に感謝して感謝して感謝していた。

 特に父親は長兄だったからか、祖母から溺愛され続けてきたため、僕よりも祖母を信じるふしがある。


 数年が経ったあるとき、僕が祖母の家を出ていきたいと強く願い、初めて心の内を両親にさらけ出したとき、父は僕をはたいて激怒した。


「嘘をつくな」

「お前が悪い」


 孤独を感じた。だけど、誰にも言えなかった。


 今、祖母は逞しくも一人で暮らしている。

ときどき会いに行くと、その優しさに気味の悪さを覚える。


 僕は年寄りが苦手だ。

 年寄りとは適度に離れて接するのが、一番だと思っている。

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