【SFショートショート短編集1】考えない葦になる

黒の巣

第1話 考えない葦になる

 西暦2040年。

 一人の天才が素晴らしい装置を作り上げる。

 その装置を使うだけで人は一生働く必要がなくなり、ストレスもなく楽しい人生を送ることができる。必要な仕事や作業は全てAIが肩代わりしてくれる。使い方が簡単な上さらに、作り方すら簡単なものだから量産も容易、まさに夢の装置だ。


 西暦2048年。

 この装置を全国民に適用する小国家が出現。この国に住む全ての人が労働を止め、ストレスのない生活を過ごし始める。最初こそ懐疑的な見方もされたが、国として見た場合の生産性は、落ちるどころかむしろ上昇しているという事実が明らかになる。この事実が世界中に広まるにつれ、次第に肯定的な意見が増えていく。


 西暦2051年。

 アメリカが全国民へ装置を配布することを発表。この出来事をきっかけに世界は装置へ傾き始める。


 西暦2074年。

 世界の9割の人口が装置を使用。生への不安が解消され、大きな戦争はなくなる。


 西暦2140年。

 全人類に装置が行き届く。(適用を拒んだ少数民族は絶滅。生への価値観が変わったことで保護活動が下火となっていた。)世界の人口は500億人を突破。しかし貧困は解消。


 西暦2239年。

 装置の開発ノウハウを持つ人類が全て死去。メンテナンスはAIが行い、人類の生は完全にAIに委ねられる。


 西暦2665年。

 あらゆる文化(スポーツや芸術活動)のマイナス成長が始まる。産まれた時から安全に生きられる環境に慣れたため、競争欲が失われ、生きることだけに興味がシフトしていく。


 西暦3016年。

 文化の消失。人と人の会話も減り始める。


 西暦3191年。

 言語の消失。


 西暦4357年。

 感情の消失。意志疎通が不可能になる。


 西暦7198年。

 装置の一部部品が経年劣化により稼働停止。自動修理システムは正常稼働していたが、原材料が枯渇。


 西暦15832年。

 装置の経年劣化がさらに進んだことから、AIが人類の数を減らすことを決定。事実上の人口減少が始まる。


 西暦19811年。

 旧オーストラリアにあたる大陸の都市機能がクローズ。オーストラリア大陸から人類絶滅。

 このころの人類からは、触覚以外の感覚器官は物理的に消失している。


 西暦24090年。

 ユーラシア大陸全土の都市機能がクローズ。残るはアメリカ大陸のみに。


 西暦40133年。

 AIが、生命の維持に必要な物質がおおよそ3000年後には枯渇することに気づく。


 西暦40640年。

 太陽光から栄養を生成する器官が備わっている人類が偶然発生。AIは当個体を優先的に培養することを決定。


 西暦41005年。

 自発的に栄養を生産できる人類が500億人を突破。


 西暦43813年。

 装置の生命維持機能が全てクローズ。繁殖を補助する機能のみ存続。人類は移動機能を失っているため、その場に自立して生存。


 西暦44366年。

 離れた個体と自発的に交配し繁殖する機能を持つ人類が発生。


 西暦48912年。

 AIが完全停止。この時点で、人類が作り上げた文明機器が全て停止。人類自身の力のみで生存活動が始まる。


 西暦16万年頃。

 太陽光を大きく浴びるため、腕の数が増殖。面積も変化し扇状に。


 西暦70万年頃。

 雨の減少により、水分を足からも確保できるよう進化。複数に分岐させ地中へ深く潜らせることで、その場に強固に固定される役割も持つこととなり、より強度を増す個体も出現。


 西暦2800万年頃。

 人類の繁殖が進み、地球表面がほぼ人類に覆われる。形も多様化し、新たな生態系の温床へと変化。


 西暦1億3000万年頃。

 人類の文明機器が全て風化し、岩石類と見分けがつかなくなる。


 西暦6億1539万2021年。

 宇宙にある他の星の知的生命体が、探査目的で地球に来訪。

 探索隊の一人の宇宙人が言った。

 「星一面が植物で覆われている。おそらく星が生まれてから一度も、高度な文明は発達しなかったのだろう」

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