第5話 コールドスリープ飽和問題

 少しだけ未来の話。

 今この瞬間を生きることより、コールドスリープに入ることを選択する人々が表れ始めた。きっと未来は今より過ごしやすく、驚きに満ちた世界になっているだろうという期待を持って。

 そうした選択を取る人間が増え、コールドスリープが世の中に浸透して早1000年の時が立った。

 しかし世界はまだ、様々な問題を抱えながら少しずつ歩みを進めている途中だった。どんなに進歩しても、人と人、国と国の衝突は続き、貧困、食料、差別といった様々な普遍的問題は形を変えて存在していた。そしてその問題のひとつに、コールドスリープをしている人々も上がっている。


 食料問題を解決するひとつの手段としても、コールドスリープは前向きに認められてきた側面もある。未来へ期待をする志願者は常に一定数存在していた上、1000年もの期間にわたって続けられた結果、コールドスリープを行っている人類は5兆人を超えた。

 その結果、仮に彼らを起こしたとしても結局食料が足りないのではないか、という問題が表面化した。


 「初期の人類は管理がずさんだったため、そもそも誰が眠っているのかさえあいまいな状態です。技術も未熟だったため現在も生きているのかさえわかりません」

 「ただ、このまま廃棄すると殺人になる」


 起こすことも、廃棄もできない。

 海底に沈む巨大なコールドスリープ都市の人口は5兆人。まだ見ぬ未来へ負の遺産は受け継がれていく。

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