スプリング・イズ・デリバリーサービス
赤狐
第1話 桜色の匂い
窓際のカーテンが揺れた。
宙に浮かぶ桃色の花びら。
それは、カタカタとキーボードを打ち込む手の、小指の爪先にふわりと触れた。
同時に、全身が感電するかのように。
もしくは、日溜まりの猫がまどろみから目覚めるように。
奥底からゆっくりと、徐々に、気泡と共に浮き上がってくる感情があった。
低いパテーションで区切られた事務机。その向こうには自分と同じように、スーツを着てパソコンの液晶画面に集中している会社員が数人並んでいた。どうやら全員、自分の作業で脇目を振る時間がないようだ。
空いている手でネクタイを緩めると、事務椅子の背もたれに体を預けた。升目状の天井を見上げる。それから、顔を正面に戻して瞼を軽く瞑り、自分の臓腑に高揚感が落ち着いていくのを、じっくりと味わった。
胸の中に満ちていく、鮮やかな桜色と、春の匂い。
溢れ出る過去の奔流に身を委ねるように肩から、ふっと力を抜いた。
そして思い出す。
幼かった時の自分自身と。
かけがえのない、旧友との想い出を。
第2話 春の来訪者 へ続く...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます