雑記というか小ネタ的なにかというか、あやふやなメモ帳

ばるじMark.6 ふるぱけ

【第132回】フリーワンライ:2017/03/17

表情の崩れた君が好き

もっと、もっと、金平糖

同じ場に生きているのだから

眠り姫の夢

主君へ謙譲、この心


【使用お題】

・同じ場所に生きているのだから

・眠り姫の夢


   *****



 僕とあいつはいつも一緒だった。

 だから、彼女の父親から話を電話越しに聞いた時、僕はただ立ち尽くすしかできなかった。


−−『いいかい、落ち着いて聞いてくれ。娘が……事故に遭った』−−


 それを聞いた瞬間、僕の体の芯にあった熱が、頭のうえからすっと抜けていったような感覚がした。

 どこに視線を合わせればいいかわからない僕はしばらく周囲を見渡して、そして足元に行き着いたとき、

さっき床に落ちて割れてしまったマグカップが目に入った。

 携帯がなる前……ほんのひと呼吸前だった。いきなりハンドルが折れて落ちてしまったのだ。

 割れたマグカップからは、淹れてあったコーヒーが床に広がり、カーペットを侵食し、なおも広がり続けていた。

 もしかしたら、これは虫の知らせだったのかもしれない。そう思った瞬間、完全に彼女が僕のもとからいなくなったのだと、

本当に唐突に悟った。


 今日はあいつの誕生日だった。

 実家を出て、一人で住むこの家で行われるはずだった二回目の誕生日パーティー。

 用意は万全だった。プレゼントも買ってあった。

 今日の就業後、一緒に帰ったときのあいつの表情が浮かび上がる。


「一昨年はマグカップ、去年は指輪! 今年は何をくれるのかな? 楽しみだなぁ」


 正直悩んだんだよ。

 最初はマグカップをあげて、それを見たあいつは真似して俺の誕生日に、色違いのマグカップを寄越してきた。

 正直悩んだんだよ。おそろいってのはどうも恥ずかしいから。

 でもあいつは、どういう表情をしているか分からない僕の顔を覗き込んで、


「だって! せっかくの記念品だもん。はっっっきりとわかるようにしたいじゃん? これがすっごく特別なものだって!」


 昔からあいつはそういうところがあった。

 僕がなにかをあげると、それをすぐに真似て僕の誕生日に寄越してくるのだ。

 ケーキをあげれば色違いのケーキを。

 飴をあげれば、べつの味の飴を。

 そうやってあいつは。


 ……どれくらいここに立っていたのか。

 暗かったはずの空に光が差し始めたようで、カーテンの隙間から白い光が線になって入ってきていた。


「……大学、いかないとな」


 なんといっても、もう就活真っ最中だ。冬という激戦期間、気を抜いていたら社会人浪人生になってしまう。

 なんか固まってた足も柔らかくなっていた。どうして僕、ここに立っていたのか。

 睡眠不足だがしかたがない。いつのまにか朝になってた空が悪い。

 僕は部屋に戻りカバンに手を掛ける。そのとき、デスクの上に一枚の紙が乗っかっているのに気づく。

 なんだろうこれ? 手にとって見る。

 【婚姻届】

 名前の欄にはあいつの名前が書いてあった。

 その上は空白。つまり俺の名前はない。


「なん、だよ……これ。なんでこんなものが−−」


 紙面が滲んでいく。

 その後、床にくずおれる。自分の足だというのに、どう頑張っても動いてはくれなかった。

 小学校の小学年のころ、僕が引っ越してきて出会ってから、大学に入って今までずっと一緒にいたあいつは、今この瞬間、僕の気づかない間にいなくなった。


   *尾張*


 

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