第43頁目 ― 16 ― サプライズ ―

   ― 16 ― サプライズ ―


 ほろ酔い気分に顔を赤らませている左隣の羽美(うみ)さん。

「羽美(うみ)さん。ってJCかJKぐらいに見えますけど

 年齢を聞くのは失礼だと思うんですが、 おいくつなんですか?」

 女性に年齢を聞くなんて失礼にあたる。そんな事は当たり前に知っている。

 だけど、女性の年齢が気になるのが、この男心。

 とりあえず、礼儀として年齢を聞くに当たっての断りを入れてから

 なんとか聞き出そうとしている、オレ。

「えっ?ワタシですか?いくつに見えます?」

 えっ?

 こ、これはまさか、

 年齢を聞いたのに、逆に質問返しされるパターンか?

 と、とりあえず、妥当な線でボケを言わないで言ってみよう・・・

「も、もしかして、23歳ぐらいですか?」

 その途端に唖然とする羽美(うみ)さん。

 えっ!。もしかして、妥当に言ったことがズバリ当たってしまった?

 不安になりながらも、シーーンとした重い空気が二人の間に流れる。

「えっ!。ワタシ、そんな年齢に見えるんですか?」

 少し怒った様子の、羽美(うみ)さん。

「あっ、すいません。ち、違いますよね。そんな歳では、ないですよね?・・・」

 空気の重さが徐々に加速しているこの時間。

 そ、そうだよな。見た目で判断するとJCやJKなんだけど、

 やっぱり、もっと若く言うべきだったよなあ。

 や、やばい、この空気に対して、

 次の言葉が出てこない・・・

 どうしたらいいんだ?

 いったいどうすればいいんだ?

 オレは、言葉を捜しながら目だけをキョロキョロとさせる。

「こ、降参です・・・それで、おいくつなんですか?」

 心の中で白旗を振って降参するオレ。

「実はワタシ22歳なんです。そんなにワタシって、そんなに歳とって見えますか?」

 落ち込みながら言う羽美(うみ)さん。

 えっ、おい!

 ほぼ正解じゃないか?

 1歳でも歳を若く言うと、喜ばれ。

 1歳でも歳を増して言うと、怒られ・悲しがられ・・・

 乙女心ってヤツかな?。

 それとも、女心ってヤツなのか?

「そ、そうなんだ 22歳ですか ボクよりお姉さんなんですね・・・」

 ここは、『 年上 』と言う表現より『 お姉さん 』って言う表現で言ったほうが良いかも知れない。

 たまに、女性がいちいち面倒くさくなる時がある。

 多分、今この時間の、これだろうと思う。

「ワタシよく、JSに間違われるんですけど、実は22歳なんです」

 えっ?普段はJSに見られているのか?。凄くとても初耳だ。

「そうなんだ。で、でもJSには無理があるかも知・・・」

 と、オレが顔を引きつらせながら喋りかけると、右隣にいるフライド野口さんが言葉をさえぎった。

「藤沢さん。さぁ、どんどんと食べてくださいな。肉は売るほどあるので、

 今食べなきゃ、あとでお腹が減りますよぉぉぉーー・・・」

 オレの目の前の皿に積みあがっていく、完全にコゲて硬くなったジンギスカンの山脈・・・

  一枚一枚が積み重なって、目の前がコゲ肉のミルフィーユになっている。

 皿三枚分にもなったコゲ肉の山脈。

 おい!。このコゲ肉って、もしかして本当は捨てる肉なんじゃないのか?

 捨てるのがイヤで、オレの皿に積んでいるだけじゃないのか?

 オレは積み重なっていく山脈を唖然としながら見ていた。

「あ、は、はい頂きます!」

 硬くなったコゲ肉をオレの皿に全部移し終えると、新たな肉を鉄鍋に乗せ、ラム肉を焼いているフライド野口さん。

 おいおいおい!。ダークマター状態の肉ばかりをオレの皿に置くなよ!

 オレは、その山脈を見ているだけでも食欲を無くす。

 箸を置き、またビールを飲む。

 その時、突然、

「キャーーーーーーッ!!」

 と、突然左隣の羽美(うみ)さんの悲鳴が聞こえた。

 えっ?!、また何かあったのか?!

 オレは驚きながら隣を見ると、

 虫をも殺せないような、22歳の羽美(うみ)さんが悲鳴をあげつつも、身の周りで飛んでいる蚊を追い払っていた。

 へぇ~~・・・、蚊は、すごく嫌いなのか。虫は殺せないんだw

 ハ虫類は簡単に殺せるのに、虫は殺せないらしい・・・


 オレ越しに顔を伏せる羽美(うみ)さん。

 オレは飛んでいる蚊を両手でパチンと仕留め落とす。

「あ、ありがとうございます五号室の人。 ワタシ、とても虫が大の苦手で・・・」

 顔を赤らめながらオレに礼を言う羽美(うみ)さん。 な、なんて可愛いんだ。

「いいえ。どういたしまて。虫ぐらいなら任せてください!」

 羽美(うみ)さんの笑顔が可愛くて、思わずテレてしまうオレ。

 テレながら、食べたくもない山脈のコゲ肉に箸を伸ばす・・・

 が、その肉の上に、オレの殺した蚊の死骸が憎たらしく乗っていた。

 おいおいおい、羽美(うみ)さんにいい所を見せた好感度で気分よくコゲ肉を食べようと思ったのに、ここで蚊の死骸かよ!。

 コゲ肉の山脈のてっぺんに乗っかっている蚊の死骸。

 てっぺんのコゲ肉と共に蚊の死骸を足元の土に落とし、やさしく力いっぱいにグリグリと踏みつける。

 ご愁傷様。安らかに土に返って、今度生まれ変わって来る時は、美味しそうなヒツジに生まれ変わって来るんだよ。

 やさしく蚊に来世を願うオレだった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る