第42頁目
住人の手元には、それぞれビールや焼酎、ウィスキーといった、個人個人に好きなアルコール類が並んでいる。
わいわいガヤガヤと楽しそうに
「みんな凄い飲んでる割りには、全然酔ってない感じがするなあ・・・」
オレは人間ウォッチングをするように、住人の様子を見ながら、独り言を言って飲んでいた。
「でも、まあ、みんな陽気で何より・・・」
テーブルに肘を付け、微かに聞こえる波音を肴に、グッと喉ごしにビールを流し込む。
「みなさん。アルコール強いですからね」
突然、左隣の恐怖の萌え少女がオレに話しかけてきた。
「えっ、あっ、、、そ、そうですね。強いですよね」
左隣に座る、羽美(うみ)さんが、
えっ?
お?、
おおおーーー!、
オレのコップにビールが注がれたぁぁぁーー!
な、なんていい子だあぁぁ!。
なんだ、この気の利いた仕草と気遣いは?
たとえ社交辞令だとしても、とてもホレてしまう。
オレはそんなちょっとした女性の仕草や気遣いが大好きなんだぁぁ・・・
よし、オレは決めた。恐怖の萌え少女は、とても言いづらいから、
『羽美(うみ)さん』とでも言っておこう。
そして、あくまでもオレの心の中での称号にしよう!。
「いつもアルコールは何を飲むんですか?」
羽美(うみ)さんが、笑顔でオレに言う。
オレは、羽美(うみ)さんの方を向き、ほろ酔い気分になった勢いを利用しエロ視線で改めて羽美(うみ)さんの姿をまんべなく舐めまわすように見る。
えっ?
お!?、おおおおおぉぉぉぉ! ゆ、浴衣だぁぁぁ・・・
羽美(うみ)さんが浴衣姿だぁーーーー!
な、なんだ?この感動は?
浴衣でこんなに感動するものなのか?
ラベンダーの薄紫色の模様が薄紅の浴衣に華麗に咲き、色合いを引き立たせている。こんな艶やかな浴衣は、きっと羽美(うみ)さんにしか着こなせない。
うん、絶対に羽美(うみ)さんにしか着こなせない!。
オレは強く感動をしながらも、自分自身に言い聞かせた。
「えっ。あっ、好きなのはビールです。アルコールの中でもビールが大好きです。
それも、羽美(うみ)さんの注いでくれるビールが一番大好きです!」
どさくさに、羽美(うみ)さんに告白アピールするオレがいた。
オレは、自分の言った言葉に恥ずかしくなり、注がれたビールを一気飲みする。
すると、羽美(うみ)さんは、左手を延ばしビール瓶を取ろうとする。右手で左手の浴衣の袖が引っかからないように袖を引き、左手でやさしくビール瓶を手に取る。
そして、いきなりオレに別な紙コップを手渡し、ビールを注ぎ始めた。
オレは、ふと手渡された紙コップを見る。
紙コップの内側に引かれたメモリの付いたコップ。
えっ?何このコップは?
ま、まさか、この紙コップって・・・
尿検査に使う紙コップでは?
オレは、何度か目をこすって何度も確認をする。
何度見ても、確かに検尿コップだった。
お、おい検尿コップかよ!!
オレは愕然とする。
もう、ツッコミどころ満載だなあw
「大丈夫ですよ。未使用のコップを教授が何十個か大学で頂いて来たそうです」
と、明るく言う羽美(うみ)さん。
で、でも、未使用だろうと、あまりにもありえない状況に気づかない羽美(うみ)さん。
ど、どんなボケをオレはすればいいんだ?
オレは考えた末に、笑顔を引き攣らせながら言う。
「じゃ、じゃあ、一番上のラインまで お願いします・・・」
オレなりにボケたつもりが、完全にスベっていた。
羽美(うみ)さんは、めぇいっぱいの笑顔を見せながら、
トクトクトク・・・と上の線まで注ぐ。
お、おい!
こ、これって、どんなプレイだよ!
色も泡も、何気にお
まあ、オレは検尿コップを不快に思いながらも、また一気に喉にビールを流し込む。
多分、教授って、あのアフロ教授の事だろう。住人からは『 教授 』と呼ばれているらしい。 検尿コップを使うとは、アフロ教授は、とてもブラックユーモアに冴えていらっしゃる。
思わず皮肉を心で呟く。
「五号室の方って、いくつなんですか?」
オレの名前を全然全く覚えてくれていない羽美(うみ)さんが笑顔で言う。
オレは気にせず、もう[五号室の人]でいいよ。と思うばかりだった。
もう、羽美(うみ)さんが隣にいるだけで幸せ気分を味わっている。
いいなあ・・・まるでキャバクラにいるみたいでww
オレがまた 一気にビールを飲み干すと、すぐに空になったコップに溢れるほどに注ぐ羽美(うみ)さんの手。
そのちょっとした手の仕草が、浴衣姿をより一層に色っぽくさせる。
「オレですか?実は、ちょっと年齢も判らないんですよ。
とりあえず、21歳と管理人さんには言ってはいるのですが、オレ、記憶喪失なんです。確かな年齢も判らないんです。」
「じゃあ。自称21歳って事ですか?」
「ええ、まあ、そんな事になりますね」
ずっと笑顔で神対応の羽美(うみ)さん。そして、その隣で苦笑いで対応するオレ。
周りの賑わう住人たちの声が聞こえないほどの二人っきりだけの会話の空間だった。
ああ、この時間が、このまま止まってしまえばいいのに・・・
オレは何度もそう思いながら飲んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます